飯田蛇笏のわからない句

『俳句鑑賞』を読み進める。飯田蛇笏の句で

「積雪や埋葬をはる日の光り」

という句が鑑賞されていて、思い出したのが

「なきがらや秋風かよふ鼻の穴」

である。この句は蛇笏の代表句とされているが、この句を良いとする理由が今だ解らず、疑問のままだ。
死体を見ている蛇笏、鼻の穴が気になってしかたがない。「なきがら」と「秋風」はつきすぎのような気もするが、そもそも遺体の安置場所を秋風の吹くような場所にするか?自宅葬とすれば、余程の「あばらや」か。季節が秋ならば、風が入らないよう襖・障子は閉めてあると思うが、どうなんだろう。秋風というのは、心象風景かな。また、鼻の穴に風が通うというのもわからない。鼻のあたりを風が吹いたのなら、わざわざ鼻の穴に焦点を絞る必要はない。鼻の穴は死の暗黒世界へと通低するブラックホールと感じたか。
この句には詩もユーモアも感じられず、死体と対峙する景色があるばかり。即物的でリアルな感じが評価されるのか。「鼻の穴」が異様な印象で、蛇笏の死へのアプローチには違和感が残るのである。