草間時彦処女句集『中年』の告白

草間時彦の続きである。

草間時彦の第一句集『中年』は、昭和40年に竹頭社から出版された。草間、45歳の時である。しかし、何で中年なんてタイトルにしたのだろう。師の波郷は「中年」の題名が気に入らなかったようであると、自作の略年譜には記されている。作者の年齢は確かに中年かもしれないが、なんだかなあのタイトルには違いない。

この句集の後記を読むと、俳句に対する草間の正直な気持ちが、初々しく伝わってくる。

「わたくしが俳句を本気になって作り始めたのは昭和二五年である。それから、何となく十五年の歳月がたち、二千句近い句が溜ってしまった。今になって整理してみると、句集に収めるに足る句は意外に少なかった。十余年にわたるわたくしの所業は質量ともにたったこれだけなのかと思うと、どうにもやり切れない気持とともに、たまらない寂寥感に襲われた。だが、今のわたくしにとって、俳句はすでに肉体の一部であり、日常のいとなみから切り離せない存在になっているのである。しかも、平凡なサラリーマン生活に於て、俳句を作ることによってのみ、自由気儘に自分の個を主張し得たのである。
だから、本句集がいかに至らぬものであろうとも、それはそれなりに、わたくしの生きて来たすべての積み重ねであり、わたくしという人間そのものなのである。御宥しを賜りたいのである。
わたくしは、本句集を編むことによって、自分の詩才の限界を知った。又、俳句という詩型を生涯の伴侶として選んだことについての感慨も深かった。だが、世の人が悪妻を愛するが如くに、わたくしは俳句を生涯愛しつづけるであろう。」

熱烈なるラブレターである。そしてまた、その言葉に嘘はなかった。