桂信子自選50句 (1)

女性の俳句作家で一番好きなのは、桂信子。
全作品は、『桂信子全句集』(ふらんす堂)にまとめられたが、平成11年に「俳句」1月号で、50句を自選している。桂信子は、平成16年逝去したので、おそらくこの50句が生涯のベスト50と推測される。第一句集『月光抄』より21句抜かれ一番多い。
3回に分けて紹介します。


『月光抄』(昭和24年)より

梅林を額明るく過ぎゆけり

ひとづまにゑんどうやはらかく煮えぬ

クリスマス妻のかなしみいつしか持ち

夫逝きぬちちはは遠く知り給はず

夕ざくら見上ぐる顔も昏れにけり

ふるさとはよし夕月と鮎の香と

倚り馴れし柱も焼けぬ彌生尽

裏町の泥かゞやけりクリスマス

花菖蒲夕べの川のにごりけり

庭石に梅雨明けの雷ひゞきけり

松の幹みな傾きて九月かな

ともしびのひとつは我が家雁わたる

閂をかけて見返る虫の闇

秋風の窓ひとつづつしめゆけり

雁なくや夜ごとつめたき膝がしら

りんご掌にこの情念を如何せむ

春燈のもと愕然と孤独なる

散るさくら孤独はいまにはじまらず

誰がために生くる月日ぞ鉦叩

ゆるやかに着てひとと逢ふ螢の夜

やはらかき身を月光の中に容れ