桂信子自選50句 (2)

桂信子、1914(大正14)年、大坂生。日野草城に師事。昭和14年結婚、2年後に夫が急逝。以後会社勤務し自活。定年退職した昭和45年「草苑」を創刊主宰。新興俳句出身の俳人として活躍、宇多喜代子らを育て、2004(平成16)年90才で逝去。

自選50句の続きを紹介する。


『女身』(昭和30年)より

藤の昼膝やはらかくひとに逢ふ

ふところに乳房ある憂さ梅雨ながき

衣をぬぎし闇のあなたにあやめ咲く

窓の雪女体にて湯をあふれしむ

ひとり臥てちちろと闇をおなじうす

暖炉ぬくし何を言ひ出すかもしれぬ

賀状うづたかしかのひとよりは来ず


『晩春』(昭和42年)より

鯛あまたゐる海の上盛装して



『新緑』(昭和49年)より

昨日とおなじところに居れば初日さす

四五人に日向ばかりの秋の道

母の魂梅に遊んで夜は還る

水番の片手しばらく樹をたたく



『初夏』(昭和52年)より

夜の町は紺しぼりつつ牡丹雪

一日の奥に日の射す黒揚羽

川半ばまで立秋の山の影