桂信子自選50句 (3)

桂信子の俳句の特質は、叙情と明晰という言葉に集約される。平明な言葉を使い、事象の奥底にあるものを追求した。

「海面には大波が立っていても、海の底のほうはものすごく静かで動くようなものはほとんどないような、物事の底にあって動かぬものを詠むべきでしょうし、それが俳句の本質ではないかと思っています。」(信子のなにわよもやま)

桂信子自選50句の残り全部です。


『緑夜』(昭和56年)より

母のせて舟や萍のなかへ入る

祭笛町なかは昼過ぎにけり


『草樹』(昭和61年)より

花のなか太き一樹は山ざくら

坐す牛にそれぞれの顔秋深む


『樹影』(平成3年)より

草の根の蛇の眠りにとどきけり

たてよこに冨士伸びてゐる夏野かな

忘年や身ほとりのものすべて塵


『花影』(平成8年)より

闇のなか髪ふり乱す雛もあれ

萍の隙間怖れし昔かな

冬滝の真上日のあと月通る

死ぬことの怖くて吹きぬ春の笛

常ならぬ窓の明りや花の暁

青空や花は咲くことのみ思ひ


『花影』以後

雪たのしわれにたてがみあればなほ

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