後藤夜半「底紅」

『後藤夜半の百句』を読んでいる。
夜半は優れた作家ではあるが、夜半が時の彼方に忘却されなかったのは、息子の後藤比奈夫が語り続けてきたことも大きいのではないか。

後藤夜半といえば、必ず出てくるのが

「瀧の上に水現れて落ちにけり」

箕面の瀧で詠まれた句だが、句会の時は誰も選をしなかったらしい。その句が、「ホトトギス」の巻頭を飾り、客観写生の手本とされた。うーん。


「底紅の咲く隣にもまなむすめ」

遺句集『底紅』のタイトルは本句から採られた。昭和29年の作品。後藤比奈夫の鑑賞文を抜粋する。

「まなむすめは愛娘、「まな」は親愛の情を表す接頭語で最愛の娘のこと。わが家と同じように今底紅の咲いているお隣にも、わが家と同じように、底紅の花のように楚々と美しい娘さんがあるのだという意。」

隣家のことを詠みながら、自分の娘への愛情がこぼれんばかり。後藤夜半の句のなかで最も好きな句です。


近氏より選句メール来る。あと来てないのは誰だ。