車窓の影法師

【自解・萩原14】

「新涼や車窓向こうに影法師」

夜の列車、座席対面の窓ガラスに映る影法師。もう一人の自分が、こちらを見つめている。沈黙の対話。

「青イガの転がって行く昼下り」

栗の木から落ちた青い毬が道を転がって行く。未熟なまま、途上のまま、未完の午後の時間。

「隙間無く黄金輝く稲田かな」

田の稲が実りの時を迎えた。黄金色の稲穂が、隙間無く田を埋め尽くす。延々と続く田圃の風景こそ日本の原風景である。

「草叢に鳴き声移り八月尽」

八月の終りの頃になると、蝉が鳴く声から、草むらにすだく虫の声に、主役は交代する。秋がいつしか訪れている。

「畦見ゆる田の広々と良夜かな」

稲刈りが終わると、畦が現れ広々とした田んぼの広がる風景に切り替わる。収穫の喜びに沸く、良夜を迎えた。