百足

【自解・萩原52】

「精虫の何処に消えし夏の沼」

精虫なるものは存在しない、虚構の産物。元気・活力の源を精の文字は象徴する。活動の季節は終わり、何もかものみこんだ沼がひろがるシュールな風景。

「事故の後皮膚に住み着く百足かな」

トラックとともに川へ転落、外傷性クモ膜下と右手首複雑骨折で2週間入院した。手首には今もその手術跡が残る。切開の縫合跡が、ムカデの形にそっくり。

「ジャンクション集合離散雲の峰」

ジャンクションは高速道路の合流地点のこと。雲の峰の季語と取り合わせてみた。

「むせる香を男の児走るや栗の花」

栗の花の匂いは、精子の匂い。男子の一句。

「木の幹を蟻逆走りひた急ぐ」

木の幹を地に向かって走るように急ぐ蟻がいた。急ぐ理由は知らないが、ひたむきな姿を句に。