久保田万太郎「落語観賞」連作

久保田万太郎が、安藤鶴夫「落語観賞」(昭和23年)の序文に贈った俳句連作。


かぞへ日となりたる火事に焼けにけり(富久)

四萬六千日の暑さとはなりにけり(船徳

大門といふ番所ありほととぎす(明烏

墓腹の空に鳶舞ふ日永かな(お見立)

横町のうなぎやの日のさかりかな(鰻の幇間

短日や大提灯の朱ヶの色(心眼)

明易やらちくちもなく眠りこけ(寝床)

短日の夫婦の出るの退くのかな(廓火事)

夏の夜の性根を酒にのまれけり(素人鰻)

たゝむかとおもへばひらく扇かな(酢豆腐

猫の恋猫の口真似したりけり(干物箱)

梅雨の笠あはれまぶかにかぶりけり(笠碁)


以上の十二句、俳句と落語の見事なコラボ。どちらも大好きな人でないと、ツボを押さえてこんな見事に仕上げられません。