虚子探訪(50) 里内裏

【 虚子探訪(50)】

 

「里内裏(さとだいり)老木(おいき)の花もほのめきぬ」

 

明治41年。「里内裏」は皇居の火災・方違(かたたが)えなどにより内裏の外に仮に設けられた皇居をいう。多く大臣邸や摂政・関白の私邸等をあてられた。仮の皇居となった邸宅に咲く桜の老樹がかすかに見える、という句意。高貴なたたずまい、時間の流れ、優美な桜花が一句から立現れる。本句は、歴史に思いをはせて作られた想像句ではなかろうか。

 

「明易き第一峰のお寺かな」

 

明治41年5月28日。 「明易し」は「短夜」の傍題。「第一峰」は、東山三十六峰の第一峰をさし、明治時代の虚子は小説・随筆の取材に何度も訪れている比叡山と特定していいだろう。夏の夜が一番高い峰から白々と明け、比叡山延暦寺に朝が来るのである。