虚子探訪(65) 落花

【虚子探訪(65)】

 

「濡縁にいづくとも無き落花かな」

 

 濡縁にどこからか桜の花びらが二三片舞い落ちてきた。あたりには桜の木は見当たらない。どこから飛んできたのであろう。自句自解では『時間は夕方でも明け方でもいい。その濡縁の落花を見た人の微かな驚き、微かな訝り落花に対する静かな愛着の心持、といふやうなものが此句の主要な部分を占めてゐる。』と記している。「濡縁」は、日本家屋の雨戸の敷居の外にある縁側をいう。

 

「提灯に落花の風の見ゆるかな」

 

大正二年。春。鎌倉、南村庵にて。庵主、宗演老師等と共に。

提灯の明かりが照らし出す中に、風が運ぶ散りゆく桜の花びらが見えるのである。その様子を、本来見えない風が「見ゆる」と表現したのである。