虚子探訪(83) 菖蒲

【虚子探訪(83)】

 

「春水や矗々(ちくちく)として菖蒲の芽」

 

大正6年4月22日。春季吟行。太田妻沼に至る車中。「矗」(ちく)は、「直」につながる文字で、草木が盛んに茂るさまを意味する。暖かな春の水の中で、菖蒲が一斉に芽吹く様子を「矗々(ちくちく)として」と表現したのだろう。

 

「菖蒲葺(ふ)いて元吉原のさびれやう」

 

大正6年5月3日。帝大俳句会。根津権現境内娯楽園。菖蒲の花が咲きだし華やかな季節となったが、かつて栄華を極めた吉原は、今ではすっかりさびれてしまったなあ、という感慨を句に。