虚子探訪(207) 春の泥

【虚子探訪(207)】

 

「鴨の嘴(はし)よりたらたらと春の泥」

 

昭和8年3月3日。家庭俳句会。横浜、三渓園

この句の眼目は「たらたら」という表現につきる。鴨の嘴から何か垂れている、それを見つけた虚子のなまなましい表現が、春の水を浴びる鴨の姿を髣髴とさせる。見事な写生句。

 

「立ちならぶ辛夷の莟行く如し」

 

昭和8年3月30日。七宝会。あふひ邸。

川端茅舎の名鑑賞を引用する。「無数の辛夷の莟がふくよかな天使のあしのやうに虚空に並列する。足、足、足、足、足、足、足、足。其れは今にもステップを踏み出すだらう。春天は眩しい。」