虚子探訪(226)野分

【虚子探訪(226)】

 

「大いなるものが過ぎ行く野分かな」

 

 虚子60歳。室戸台風が大阪を直撃した当日。鎌倉でも朝から風雨が吹き荒れ、お昼過ぎに止んだ。「大いなるもの」とは、大自然の力、神の意思をいうのであろう。人間はただ過ぎ行くのを待つしかない。

 

「古(いにしえ)の月あり舞の静なし」

 

昭和9年9月21日。家庭俳句会。鎌倉、鶴ケ岡八幡楼門。野分吹く。号外に颱風京阪地方を襲ひ大阪天王寺の塔倒ると。

台風一過、澄んだ夜空に月は上り、鶴ケ岡八幡の舞殿に昔と同じ月光が差す。かつてここで舞を舞った静御前の姿は今はない。