宇多喜代子

宇多喜代子は昭和10年生まれ。私の母親と同年齢。

彼女の文章が好きで、何冊か著書を読んだ。『私の名句ノート』に阪神淡路大震災の被災の記述がある。

 

「引出しいっぱいに入っていた大事なメモカードが水を含み、団子状になってしまっている。他の人には何の役に立たないものでも、私には大事な大事なカードである。それがくっつき合って塊となり、紙の体をなしていないのだ。ふたたび会うことのない人の話、二度と知ることのできないデータ。大勢の死傷者やおびただしい被害の前では、そんな引出しの受難などとるに足らぬもののようであったが、しばらくは何もする気にならなかった。」

 

ノートパソコンが突然動かなくなり、営々と記録してきたパソコンの内蔵データが使えなくなってしまった苦い経験が私にもある。深い同情と共感をもって読んだことであった。

 

蓑虫や思へば無駄なことばかり

 

斎藤空華の句。