父と子 石田波郷

石田修大の『わが父波郷』を読み始めた。冒頭、長男である作者が「波郷と私の関係は、限りなく他人に近かった。幼時に離れて暮らしたのが遠因だが、考えてみれば親子だろうと友達だろうと所詮は別の人格、他人のことなど本当のところはわかりはしないのである。」と他者として位置付けているのが印象深い。なるほど父の存在というものは、そういうものかもしれない。わが身を振り返っても、父とは親しみよりもどちらかと言えば煙たい存在だった。ただ他者ではあるが、どうでもよい存在ではない。変に愛情で結ばれた親子の幻想に縛られては、父の評伝は書けないであろう。かつて父と子は文学のテーマの一つであった。ツルゲーネフ『父と子』しかり、志賀直哉『暗夜行路』しかり、今やそれも昔か。

 

バスを待ち大路の春をうたがはず

 

石田波郷の句。