櫂未知子「鍛錬」二十一句より

「南風」の「競読 現代の俳句」原稿の再録、第3弾です。

櫂未知子「鍛錬」二十一句(「俳句」平成30年3月号)より。

 

家ごとに小さき橋持ち冬灯

 

滋賀県醒ヶ井は、中山道の宿場町であり、地蔵川に沿って街並みが形成されている。名水「居醒の清水」を源流とする湧水が流れる水路には「梅花藻」と呼ばれる水草が生え夏に白い花を咲かせる。水路を越えて家に入るため橋がかけられている。家に火が灯り一日の仕事を終えた人が、小さな橋を渡ってそれぞれ自分の家に帰っていく。昔から延々と続くつましやかな生活風景が情感豊かに描き出されている。「冬灯」が全体をよく締めて、あたたかな人の気配を感じさせる。


きさらぎや貝の昏さの猫眠り

 

この句が何か不安定なのは中七最後の「の」が下五に上手く連携していないからである。助詞「の」に下五を修飾する働きを持たせようとしているわけだが、「猫眠り」で連用形止めの句と解釈すると、「貝の昏さの猫」は意味不明となる。「猫眠り」を名詞と捉え解釈すれば意味は通じるが、用語としての一般性には疑問が残る。また、猫の眠りが「貝の昏さ」であることを発見した手掛かりがなく、唐突な断定と「きさらぎ」の季語設定に、読手は取り残されてしまうのである。