池田澄子「掬えば揺れる」五十句より

「南風」の「競読 現代の俳句」原稿の再録、第4弾です。
池田澄子「掬えば揺れる」五十句(「俳句」平成30年5月号)より。

 

まんさくや痒い目を掻かない努力

 

努力というのは目的達成のために一生懸命に何かをすることであるが、この場合は痒い目を掻くことを我慢するという、あえてしないという真逆の行為であり、それを「努力」と呼ぶと、何かおかしみが湧いてくる。季語は「まんさく」で、早春に黄色で細長い四弁の花をつける。山野に自生するが、鑑賞用のものもある。春を告げるというまんさくの花を見ていて目のかゆみに身もだえする人物像が想像されて愉快。


寒い月夜や甘言をありがとう

 

誰かにおためごかしか、口先だけの不誠実なことを言われたのだろう。「甘言をありがとう」と皮肉なフレーズで切り返している。これに「寒い月夜」が上につくと、「寒い」が世間的には作品評価のフレーズとして「おもしろくない」「つまらない」の意味で流布しており、寒いと甘言はあまりにつきすぎていて発想の飛躍に乏しい。甘言は実際に寒い月夜に聞いたのかもしれないが、句としては平凡になってしまったきらいがある。