菫の濃紫の小さな花を散歩道に見かけるようになった。菫は可憐な花である。芭蕉が「山路来て何やらゆかしすみれ草」と詠んだ感じが分かる。日当たりのよい山野に自生するが、その種類は50種類以上あるという。夏目漱石にも「菫程な小さき人に生れたし」という句があり、私は漱石がさらに好きになったのでした。

 

菫咲き崖にやさしき日ありけり

 

石塚友二の句。

ゲートタワー

JR名古屋駅のゲートタワーが17日月曜日に完全オープン。三省堂書店が8Fに出店したので、どんな感じか興味津々、早速でかけてみた。ゆったりとしたスペースに棚が並び、選書しやすい。俳句の本を2冊買ったら、トートーバッグがもらえた。

名古屋駅界隈がドンドンお洒落になっていく印象、栄もうかうかしていられないね。ゲートタワーは、名古屋ターミナルホテルがあった場所。私の結婚式はここでしました、今は昔の話です。

 

遅き日のつもりて遠きむかしかな

 

蕪村の句。

川端茅舎

朝日文庫の『現代俳句の世界3 川端茅舎・松本たかし集』を書棚から抜き、通勤時間に読む。川端茅舎は、第一句集「川端茅舎句集」が圧倒的によく、「華厳」以降は有名な句も散見するが力が衰え、マンネリ化と病気の境涯を読むような句が多くなっていく。しかし生涯に1句でも後世に残る句が詠めればたいしたものだから、高浜虚子に「花鳥諷詠真骨頂漢」と言わせた川端茅舎の業績はいささかも揺らぐものではない。

 

漣(さざなみ)の中に動かず蛙の目

 

川端茅舎の句。

影法師

電車通勤である。帰りの電車は夜になる。車窓には夜景も見えるが、大方映るのは座っている自分。見つめながら時間が過ぎていく。電車の揺れる音がどこまでも続く。

 

春の宵向かひに座る影法師

家の前には林があり、この時期鳥の囀(さえず)りで賑やかになる。鳥の声が判別できれば楽しいだろうが、声が違うとわかるくらいのこと。鳥のオスは大変だ、縄張り宣言をし、メスに求愛をし、ああ忙しい。

 

囀をこぼさじと抱く大樹かな

 

星野立子の句。

春うらら

散歩道の田圃が掘り起こされて田植えに向けた準備が始まっている。そういえば、元気に鳴く蛙の声も雨のあとに聞いたな。畑には、エンドウがもう白い花を咲かせている。我が家のエンドウは蔓が伸び始めたところです。

桜が咲いたなと思っていたら、自然界は初夏へ向かって歩みを進めているのだね。家の庭の雑草も背丈が伸びてきたし、来週は草取りもしなくては。

 

目覚めればエンドウの花咲きにけり

海街

吉田秋生の『海街diary8』を読了。累計320万部突破、吉田秋生は画業40周年とある。そうか、もうそんなになるのか。「桜の園」あたりからの読者だから、これも長い付き合いではある。最近の絵は、タッチが柔らかく円熟味の境地というべきか。ストーリー展開も、ごく自然に入っていける。この漫画も、どこへ読者を連れていくのか楽しみな作品の一つ。

 

翔てば野の光となりて春の鳥

 

長瀬きよ子の句。