2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

虚子探訪(96) 昼蚊

【虚子探訪(96)】 「見失ひし秋の昼蚊のあとほのか」 大正7年。秋の昼間、蚊に刺されておいかけたが見失ってしまった。蚊に刺された後だけがほのかに残っている。 「菖蒲剪るや遠く浮きたる葉一つ」 大正8年。婦人俳句会の連中、鎌倉に来る。はじめ邸にて。…

虚子探訪(95) 野菊

【虚子探訪(95)】 「秋天の下に野菊の花弁欠く」 大正7年10月21日。神戸毎日俳句会。果てしなく澄み切った秋の空を歩いてきて、ふと足許をみれば数片の花びらが無い野菊が咲いていた。花弁を欠く野菊の硬質な感じと秋空の透明感が一体となっている。 「二三…

虚子探訪(94) 暮の秋

【虚子探訪(94)】 「船に乗れば陸(くが)情あり暮の秋」 船に乗って海に出ると、陸地にあれこれと思いの募る秋の終りであることよ。 「能すみし面の衰へ暮の秋」 大正7年。能を舞い終われば、つけた能面もすっかりと老衰したように感じる秋の終り。

虚子探訪(93) 夏草

【虚師探訪(93)】 「夏草に下りて蛇うつ烏二羽」 大正7年?或は7年以前なるべし。地面にカラス2羽が蛇を捕獲せんと闘争している様子を描く。生存するための食糧確保であるが、非情の光景が展開されている。 「夏の月皿の林檎の紅を失す」 大正7年7月8日。虚…

虚子探訪(92) 牡丹

【虚子探訪(92)】 「船にのせて湖をわたしたる牡丹かな」 大正7年?或は7年以前なるべし。牡丹の花が船にのせられ湖上を運ばれていくよ。珍しく、また美しい光景。 「夏草を踏み行けば雨意人にあり」 夏の草をふんで歩いて行く。おや、雨が降り出しそうだな…

虚子探訪(91) 老尼

【虚子探訪(91)】 「梅を探りて病める老尼に二三言」 大正7年?或は7年以前なるべし。探梅にでかけた折、病気の年寄りの尼さんにお見舞いの声をかけたことだよ。梅ももうすぐ咲きます、御身体お大事にしてください。 「山吹に来り去りし鳥や青かつし」 大正7…

虚子探訪(90) 鞦韆

【虚子探訪(90)】 「鞦韆に抱き乗せて沓に接吻す」 大正7年4月16日。婦人俳句会。柏木かな女居。鞦韆はブランコ、かつては貴族の遊び。ブランコに女を抱きあげて乗せ、揺らして遊ぶ。揺れる足にはいた沓の先に接吻してしまったよ、の句意。華やかな宮庭生活…

虚子探訪(89) 立春

【虚子探訪(89)】 「老衲火燵に在り立春の禽獣裏山に」 「老衲」(ろうのう)は僧侶の自称。坊さんはコタツにいるよ。立春の今日、冬眠から目覚めた動物たちは裏山にいるよ。立春は陽暦2月4日頃。暦の上で春が始まるとされる日である。 「雨の中に立春大吉の…

虚子探訪(88) 耶蘇

【虚子探訪(88)】 「何の木のもとともあらず栗拾ふ」 大正6年10月19日。福岡第二公会堂に於て。何の木なのか名前も知らないが、その下で栗を拾ったよ。どこからこの栗は来たんだろうね。 「今朝も亦焚火に耶蘇(やそ)の話かな」 大正7年?或は大正6年か。今朝…

虚子探訪(87) 天智天皇

【虚子探訪(87)】 「天の川のもとに天智天皇と虚子と」 大正6年10月18日。筑前太宰府に至る。同夜都府楼址に佇む。懐古。天智天皇と虚子自身を並列に並べている。「虚子と」は「臣虚子と」に後日変更された。明治人の臣民の意識は、現在の者には解りにくくな…

虚子探訪(86) 高嶺晴

【虚子探訪(86)】 「簗見廻つて口笛吹くや高嶺晴」 大正6年6月10日。発行所例会。口笛を吹きながら簗を見廻っている人がいる。高い山の上の空は快晴、上機嫌である。 「此松の下に佇めば露の我」 大正6年10月15日。帰省中風早柳原西の下に遊ぶ。風早西の下は…

虚子探訪(85) 蛇

【虚子探訪(85)】 「蛇逃げて我を見し眼の草に残る」 大正6年5月13日。発行所例会。16日、坂本四方太、中川四明、日を同じうして逝く。 蛇と遭遇してお互いを見た。蛇は逃げ去ったが、私を見つめていた蛇の眼が、蛇のいた草の上に残像として残された。印象鮮…

虚子探訪(84) 風流

【虚子探訪(84)】 「大蟇先に在り小蟇後(しり)へに高歩み」 大正6年5月8日。婦人俳句会。大蟇が後ろに小蟇を従えてノシノシと高歩きをしていくよ。人間世界のようで面白いじゃないか。 嘲吏青嵐 「人間吏となるも風流胡瓜の曲るも亦」 大正6年5月12日。虚吼…

虚子探訪(83) 菖蒲

【虚子探訪(83)】 「春水や矗々(ちくちく)として菖蒲の芽」 大正6年4月22日。春季吟行。太田妻沼に至る車中。「矗」(ちく)は、「直」につながる文字で、草木が盛んに茂るさまを意味する。暖かな春の水の中で、菖蒲が一斉に芽吹く様子を「矗々(ちくちく)とし…

虚子探訪(82) 葛城

【虚子探訪(82)】 「葛城の神み臠(みそな)はせ青き踏む」 大正6年2月10日。帰省の途次堺に寄る。白鳥吟社主催堺俳句会に出席。泊雲、泊月、躑躅、浜人、はじめ、九品太、月斗、一転、梅史、桜坡子等と共に。葛城の地に在る神様をご覧になりながら、草の萌え…

虚子探訪(81) 闇汁

【虚子探訪(81)】 「破蕉龍を失して水仙玉をはらめり」 大正5年12月3日。帝大俳句会。9日、夏目漱石逝く。芭蕉の葉は破れて立派な外観は亡くなってしまったが、水仙は宝玉を懐妊したかのごとく美しく咲いている。龍も玉も天子に関する物事につけて敬意を表す…

虚子探訪(80) 木曾川

【虚子探訪(80)】 「露の幹静に蝉の歩き居り」 大正5年9月10日。子規忌句会。露に濡れた木の幹を蝉が静に歩いている様子を写生。虚子は、こういうもの静かな風景が好きなのだろう。 「大空に又わき出でし小鳥かな」 空に湧き出るように子鳥たちが飛び立った…

虚子探訪(79) 水温む

【虚子探訪(79)】 「これよりは恋や事業や水温む」 大正5年2月11日。高商俳句会。山王境内楠本亭。高商卒業生諸君を送る。卒業生へのお祝いの俳句。卒業後は、恋に事業に頑張れと呼びかけている。「水温む」の季語が、暖かな感じを漂わせる。 「麦笛や四十の…

虚子探訪(78) 通草

【虚子探訪(78)】 「太腹の垂れてもの食ふ裸かな」 大正4年6月20日。発行所例会。裸姿で物を食べているその人の腹は、大きな太っ腹でしかもだらりと垂れている。デブなんだろうな。 「烏飛んでそこに通草(あけび)のありにけり」 烏が飛んでいったところには…

虚子探訪(77) 接木

【虚子探訪(77)】 「雲静かに影落とし過ぎし接木(つぎき)かな」 接木をしている上空に雲があり、雲の影が地面に落ちている。やがて雲が流れていき影もまた過ぎていった。静かな時間の流れ。字余りで、リズムも悪いなあ。 「造化已に忙極めたるに接木かな」 …

虚子探訪(76) 濡縁

【虚子探訪(76)】 「濡縁(ぬれえん)に雨の後なる一葉かな」 大正3年。雨が降った後の濡れた縁側に一枚の葉が落ちていた。雨風に運ばれてやってきたのだろう。激しく降った雨を思い、ただいま現在の静かな時間を感じる句。 「葡萄の種吐き出して事を決しけり…

虚子探訪(75) 強者

【虚子探訪(75)】 「清水のめば汗軽らかになりにけり」 大正3年7月19日。発行所例会。暑い日だったのだろう。清水を飲み涼を得て、流れていた汗も引き身体全体が軽快で爽やかに感じたのである。 「一人の強者唯出よ秋の風」 「一人の強者」とは何であるのか…

虚子探訪(74) コレラ

【虚子探訪(74)】 「コレラ怖(お)じて綺麗に住める女かな」 「コレラ舟いつまで沖に繋り居る」 「コレラの家を出し人こちへ来りけり」 大正3年7月5日。虚子庵例会。「コレラ」は夏の季語である。コレラはコレラ菌によっておこる急性胃腸炎。菌に汚染された…

虚子探訪(73) 余寒

【虚子探訪(73)】 「鎌倉を驚かしたる余寒あり」 大正3年2月1日。虚子庵例会。虚子は自句自解で『鎌倉といふところは、寒さが強くない所だと考へてをつたが、春になつて、もう大分暖かになつた時分だのに不意に又寒さが襲つて来た。鎌倉に住んで居る人を驚か…

虚子探訪(72) 春を待つ

【虚子探訪(72)】 「うき草のそぞろに生(お)ふる古江かな」 大正3年1月14日。京都に至る。祇園左阿弥の晩句会に臨む。古い入江に、浮草がふわふわと落ち着かない様子で生えている。京都祇園の句会にイメージを合わせたような句。 「時ものを解決するや春を待…

虚子探訪(71) 巨人

【虚子探訪(71)】 「年を以て巨人としたり歩み去る」 大正2年12月。第三日曜。発行所例会。ゆく年を巨人に見立てた。巨人は歩み去っていく。どうすることもできない、見送るばかり。季語は「年歩む」で年の暮を表す。 「我を迎ふ旧山河雪を装へり」 大正3年1…

虚子探訪(70) 秋雨、本日ブログ450回到達!

【虚子探訪(70)】 「秋雨や身をちぢめたる傘の下」 大正2年9月。第三日曜。子規忌句会。秋雨が降り気温も低下し、冷えを感じて身体も縮こまるなあと、傘をさして感慨にふけっている人がいる。 「此秋風のもて来る雪を思ひけり」 大正2年10月5日。雨村、水巴…

虚子探訪(69) 灯取虫

【虚子探訪(69)】 「灯取虫燭を離れて主客あり」 「灯取虫」の題詠。灯りに集まってきた蛾が燭台から離れると、本日のメインゲストがやってきた。 「灯ともせば早そことべり灯取虫」 大正2年7月。奉天の佐藤肋骨、京城の吉野左衛門、千葉の渡部非砂、東京の…

虚子探訪(68) 蛍

【虚子探訪(68)】 「寝し家を喜びとべる蛍かな」 寝た家の中を喜んで飛び回る蛍である。よその家に宿泊したのが嬉しいかと擬人化して蛍を見ている。 「師僧遷化芭蕉玉巻く御寺かな」 大正2年7月。第一日曜。虚子庵例会。「遷化」は高僧が死去すること。尊師…

虚子探訪(67) 蟇

【虚子探訪(67)】 「古庭を魔になかへしそ蟇」 「な・・・そ」で動詞の示す動作を禁止する古典文法を使用。ヒキガエルよ、古い庭を魔界に変えてはならんぞ、という句意。蟇は容貌魁偉で体型も大きいことから、妖術を使うことができるというような伝説があっ…