2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

虚子探訪(157) 熔岩

【虚子探訪(157)】 「熔岩の上を 足(はだし)の島男」 昭和3年10月10日。薩摩に赴き、桜島に遊ぶ。桜島の熔岩の上を地元の人は裸足で歩いている様子が、珍しく感じられたのである。 「七盛の墓包み降る椎の露」 昭和3年10月。赤間宮参拝。下関市にある赤間神…

虚子探訪(156) ザボン

【虚子探訪(156)】 「はなやぎて月の面にかかる雲」 月が美しく光り輝いている。雲が月にかかっているが、それさえも華やいで見えることだ。 「われが来し南の国のザボンかな」 昭和3年10月7日。福岡市公会堂に於ける、第2回関西俳句大会に出席。会衆400。…

虚子探訪(155) 新涼

【虚子探訪(155)】 「新涼や仏にともし奉る」 昭和3年9月16日。子規俳句会。題龍寺。18日、石井露月逝く。仏前に灯を点しお参りする日々の営みに、今日は新涼を感じたのである。季節の変わり目の体感を詠んだ。 「ふるさとの月の港をよぎるのみ」 旅の途中、…

虚子探訪(154) ゆすらうめ

【虚子探訪(154)】 「川船のぎいとまがるやよし雀」 昭和3年6月。川r船がギイと音を立てて方向を変えて曲がる。その音におどろいたのか、川岸の葭のあいだから雀が飛び立った。 「姉妹(おととい)や麦藁籠にゆすらうめ」 昭和3年7月14日。婦人俳句会。姉妹の…

虚子探訪(153) 奥の宮

【虚子探訪(153)】 「遅桜なほもたづねて奥の宮」 遅咲きの桜をもっと見たいと、貴船神社の奥の宮まで訪ねたことだ。 「おもひ川渡れば又も花の雨」 昭和3年4月23日。泊雲、泊月、王城、比古、三千女と共に鞍馬貴船に遊ぶ。 貴船神社は、本宮、結社(ゆいのや…

虚子探訪(152) 行人

【虚子探訪(152)】 「両の掌にすくひてこぼす蝌蚪の水」 昭和3年4月。七宝会。植物園。両手でオタマジャクシを掬いとったのである。水が滴りこぼれ、オタマジャクシが手の中ではねている。 「行人の落花の風を顧(かえりみ)し」 昭和3年4月15日。発行所例会。…

虚子探訪(151) 柊

【虚子探訪(151)】 「柊をさす母によりそひにけり」 昭和3年2月。節分には、柊の枝を鰯に刺して飾り魔除けとした。虚子の母追慕の句。 「草間に光りつづける春の水」 昭和3年4月7日。婦人俳句会。草の間にキラキラ光るもの、それは春の水。水のきらめきが伝…

虚子探訪(150) 京言葉

【虚子探訪(150)】 「やり羽子や油のやうな京言葉」 羽根突きをしている娘たち。交わす言葉は京都弁。ねっとりとしたものの言い方は「油のやうな」の比喩がぴったりとくる。 「東山静に羽子の舞ひ落ちぬ」 昭和2年12月。京都の東山を背景に追羽子の様子が句…

虚子探訪(149) 踊の場

【虚子探訪(149)】 「はじまらん踊の場(にわ)の人ゆきき」 昭和2年10月。盆踊りが始まろうとしている。会場は、にわかに人の行き来が多くなり、開始の高揚感にあふれている。 「朝寒の老を追ひぬく朝な朝な」 昭和2年10月23日。発行所例会。泊雲来会。会者…

虚子探訪(148) 鎌倉

【虚子探訪(148)】 鎌倉 「秋天の下に浪あり墳墓あり」 昭和2年9月19日。子規忌句会。田端大龍寺。 鎌倉、それは太平洋の波が洗う地、悠久の歴史を刻む墳墓の地。地理的な空間軸、歴史の時間軸の中で鎌倉の地を大きく把握して句にとらえた。 「仲秋や月明か…

虚子探訪(147) 清閑

【虚子探訪(147)】 「遅月の山を出でたる暗さかな」 昭和2年8月16日。夕。京都に至り、加茂堤に大文字を見る。「遅月」は秋の季語。月が山から出て姿を見せたが、あたりは一面暗い秋の夜。 「清閑にあれば月出づおのづから」 昭和2年9月。退官せし前の横田…

虚子探訪(146) みちをしへ

【虚子探訪(146)】 「俳諧の旅に日焼し汝かな」 昭和2年8月8日。枴童(かいどう)上京の為、発行所小集。清原枴童は上京して虚子に師事。後に博多毎日新聞社、勤務し俳壇を設置し選者となる。大正14年「木犀」創刊主宰し、俳句普及に貢献した人物。俳句の道に…

虚子探訪(145) くらげ

【虚子探訪(145)】 「大夕立来るらし由布のかきくもり」 昭和2年7月。大毎、東日委嘱により別府に至る、日本八景の一に当選したる別府の記事を書く為。 大きな夕立がやってきそうだ。由布岳のあたりはにわかにかき曇りもう真っ黒になっている。 「わだつみに…

虚子探訪(144) あやめ

【虚子探訪(144)】 「なつかしきあやめの水の行方かな」 久しぶりに見たアヤメは昔と変わらぬ美しい姿で咲いておりうれしい気持ちにさせてくれる。アヤメの咲いている水は、どこへ流れて行くのだろう、変わらぬアヤメの美と、過行く時間を水に感じて。 「よ…

虚子探訪(143) 水馬

【虚子探訪(143)】 「くづをれて団扇づかひの老尼かな」 昭和2年。老人会。暑いのである、姿勢を崩して団扇を使っている老いた尼さん。「くづをれ」と「老」が反響しあう。 「松風に騒ぎとぶなり水馬(みずすまし)」 昭和2年7月。松に吹く風に反応してか、大…

虚子探訪(142) セル

【虚子探訪(142)】 「セルを著て病ありとも見えぬかな」 昭和お2年5月。「セル」は、薄い毛織物の生地で作った初夏の着物。最近はあまり着られなくなった。夏の季語。セルを着たその人を見ると、とても病気があるとは見えないとの句意。 「鵜飼見の船よそほ…

虚子探訪(141) 蜥蜴

【虚子探訪(141)】 「濃き日影ひいて遊べる蜥蜴かな」 昭和2年5月15日。みづほ帰朝歓迎句会。発行所。夏の日差しの中にいるトカゲ。走る時には影ができる。それを「日影ひいて」といったのである。『五百句』所収にあたり、「日蔭」から「日影」に推敲された…

虚子探訪(140) 静

【虚子探訪(140)】 「一片の落花見送る静かな」 満開の花から零れ落ちる、一片の花を見送るように見ている作者。静かな時間の流れ。 「椢原(くぬぎはら)ささやく如く木の芽かな」 昭和2年4月。京都滞在。光悦寺にて。椢がささやくが如く一斉に芽吹く季節。新…

虚子探訪(139) 春雨傘

【虚子探訪(139)】 「斯く翳(かざ)す春雨傘か昔人」 昔の人はこんな風に春雨の傘をさしたのだろうというのだが、どんな風に傘をさしたのだろう。 「春山の名もをかしさや鷹ケ峰」 春の山というのもおかしいと感じる「鷹ケ峰」という名前の山である。「鷹」は…

虚子探訪(138) ものの芽

【虚子探訪(138)】 「うなり落つ蜂や大地を怒り這ふ」 昭和2年3月17日。肋骨、為王、楽堂と雑談句作。発行所。蜂の巣が除去のため地面に落とされたのだろうか。怒れる蜂は唸り声のような羽音をたて地面を這いまわり飛ぶ。近寄ると危ないぞ、刺されないよう御…

虚子探訪(137) 蜂

【虚子探訪(137)】 「木々の芽のわれに迫るや法(のり)の山」 昭和2年3月。新緑の季節、芽吹いた木々が自分に迫ってくるような、傾斜面のきつい山である。 「巣の中に蜂のかぶとの動く見ゆ」 まあ読んだままである。「蜂のかぶと」は蜂の頭部である。巣の中…

虚子探訪(136) 踏青

【虚子探訪(136)】 「うち笑める老を助けて青き踏む」 「青き踏む」は、草の萌え出た野を歩き楽しむことをいう。笑っている老人の手を取って補助しながら一緒に歩いたのだろうか。 「踏青や古き石階あるばかり」 昭和2年2月28日。発行所例会。「踏青」と「青…

虚子探訪(135) 籔

【虚子探訪(135)】 昭和時代のスタートです。 「籔の穂に村火事を見る渡舟(わたし)かな」 昭和2年1月。渡し舟に乗っている作者は、舟の進む岸辺の籔草の間からもれる村火事の炎を見たのである 「籔の池寒鮒釣のはやあらず」 あ昭和2年1月20日。発行所例会。3…

虚子探訪(134) 冬木

【虚子探訪(134)】 「掃初(はきぞめ)の箒や土になれ始む」 大正15年12月。今年初めての掃き掃除。箒もだんだん土に慣れてきたみたいだ、 「大空に伸び傾ける冬木かな」 大正15年12月21日。東大俳句会。発行所。大地から大空へ向かい、冬となり葉の落ちた木の…

虚子探訪(133) 屋根落葉

【虚子探訪(133)】 「自らの老(おい)好もしや菊に立つ」 大正15年10(11?)月。自分の老いを肯定して菊の横に立つ虚子。 「たまるに任せ落つるに任す屋根落葉」 屋根の落葉を見たままに写生。「任す」の言葉に自分ではどうにもならないという気持ちが感じられ…

虚子探訪(132) 初嵐

【虚子探訪(132)】 「棚ふくべ現れ出でぬ初嵐」 大正15年9月7日。東大俳句会。発行所。棚にヒョウタンの実が垂れ下がる時節になったなあ。初嵐は、秋の初めの強い風をいう。 「雨風や最も萩をいたましむ」 大正15年9月。雨風が吹いて、最も被害が大きかった…

虚子探訪(131) 清水

【虚子探訪(131)】 「草がくれ麗玉秘めし清水かな」 大正15年8月5日。発行所例会。草の葉の下には美しい宝石が隠されているかの如く、澄みわたる清水であることよ。「清水」をありったけの言葉で修飾したような句。 「底の石ほと動き湧く清水かな」 大正15あ…

虚子探訪(130) 古書

【虚子探訪(130)】 「古書の文字生きて這ふかや灯取虫」 古書の開いたページの文字の上に生きた灯取虫が這っているのである。古書に時間の堆積を感じさせて、這いまわる灯取虫の生命の燃焼を詠んだ。 「威儀の僧扇で払ふ灯取虫」 大正15年7月。作法に添った…

虚子探訪(129) 涼舟

【虚子探訪(129)】 「今一つ奥なる滝に九十九折(つづらおり)」 大正15年7月12日。発行所例会。もう一つ奥にある滝をみるために九十九折の曲り路を歩いていく。「一つ」と「九十九折」で足して百でおさまりがいいなと蛇足の感想。 「橋裏を皆打仰ぐ涼舟」 大…

虚子探訪(128) 月見草

【虚子探訪(128)】 「唯一人船繋ぐ人や月見草」 大正15年6月23日。発行所例会。一人で舟を岸に係留する作業を黙々とする人がいる。その傍らには月見草が咲いている。一幅の絵のような句。 「古蚊帳の月おもしろく寝まりけり」 大正15年6月。古い蚊帳に入り見…