2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

句集『稲津』(149)北辰

【句集『稲津』(149)】夕月夜わが町白く浮かびけり 山越えをした下り坂から、住んでいる町が一望できる。月光に照らされ白く輝く町が浮かびあがる。山に囲まれた田舎町に静かに夜が更けていく。 北辰の縁に集ふ星月夜 岐阜県立多治見北高の卒業生が、地元…

句集『稲津』(148)麻婆豆腐

【句集『稲津』(148)】還暦祝ふ麻婆豆腐の唐辛子 還暦を赤いちゃんちゃんこならぬ、赤い唐辛子の入った麻婆豆腐で祝う。赤色は血の色、命の色である。『俳句』今井聖選者、佳作入選。 台風が口笛を吹く夜の闇 真っ暗な夜の闇を台風が通過していく。聞こえ…

句集『稲津』(147)風見鶏

【句集『稲津』(147)】鰯雲少し傾き風見鶏 秋の空に鰯雲が広がる。風見鶏は少し傾いて立っている。風が吹いている。ただ、風が吹いている。やがて風が落葉を運ぶだろう。 柿の実は風をこらへてとどまれり 柿の木はたわわに実をつけるが、柿の枝に残って大…

句集『稲津』(146)屈葬

【句集『稲津』(146)】腹見せて網戸を走る守宮かな 守宮は家の守り神である。網戸の上を小さな身体をせわしげに動かし移動していく。窓ガラスの反対側から見ているので、守宮の腹が丸見え。普段はどこにいるのだろうか。 屈葬のごとく眠りて秋暑し 暦は秋…

句集『稲津』(145)黒揚羽

【句集『稲津』(145)】夏の旅スーツケースを股ばさみ 旅行にはスーツケースを持ち歩くのが一般的だが、電車内で振動で置いたスーツケースが動いてしまうことはある。それを防ぐために両脚で股ばさみしている光景も見かける。 黒揚羽どこへゆくともゆかぬと…

句集『稲津』(144)精算機

【句集『稲津』(144)】夏旱休耕田の草の丈 兼業農家で田んぼは母が面倒を見ていたが、今は作る人もなく休耕田となっている。草が繁茂し鳥や虫たちの楽園となっている。米は作らないが草刈りはする。 炎昼や誰にも喋る精算機 駅の改札の近くにあるのが精算…

句集『稲津』(143)タワーマンション

【句集『稲津』(143)】立葵タワーマンション仰ぎ見る タワーマンションの下にある舗道の花壇に立葵が咲いている。立葵も背丈のある花だが、タワーマンションともなれば、遥か仰ぎ見る高さである。 街路灯淡き光へ蛾の寄り来 夏の夜、街路灯の光に蛾が集ま…

句集『稲津』(142)蜻蛉

【句集『稲津』(142)】日は落ちぬ十薬の葉の深緑 日が沈み夜がやって来ようとしている。まだ完全に暗くはなっていないが、まもなく闇があたりを覆うだろう。十薬の葉の色が濃く感じる。 蜻蛉の腕に触れてはまた離れ 蜻蛉が、まつわりつくように飛んでいる…

句集『稲津』(141)母入院2

【句集『稲津』(141)】鼻腔より酸素を入れぬ夕薄暑 入院した母は、酸素ボンベを傍らに置き鼻に酸素を入れる管をつけて暮らすことになった。酸素マスクで口が塞がれないだけ良しとしよう。 点滴の管の長さや梅雨の入 点滴はやがて外れたが、筋肉は落ち歩行…

句集『稲津』(140)母入院

【句集『稲津』(140)】母入院五月雨や母乗せ運ぶ車椅子 母の体調が急変。自家用車で地元の総合病院にいき、車椅子を借りて運びこむ。肺気腫との診断。そのまま入院し、点滴と酸素吸入器を装着して、寝台に寝たままとなる。 夏を病み部屋中母の呼吸音 病室…

句集『稲津』(139)山法師

【句集『稲津』(139)】山法師人動き出す朝七時 家の庭には山法師の木が植えてある。二十年過ぎて随分大きくなった。朝方七時頃になると、田舎とはいえ人が活動しだす。登校する小学生、通勤の車、山法師が見ている。 薄く青瞼に塗りて夏始 瞼に薄く青のア…

句集『稲津』(138)鳥曇

【句集『稲津』(138)】竹の秋静かに人の通りゆく 竹の落葉の上を人が歩いて行く。何かを語るわけでもなく、何を見るという訳でもなく。静かな歩み、穏やかな生活。何でもない日々があるばかり。 鳥曇夫婦二人の家屋敷 子供が3人いて、家族5人が暮らしてい…

句集『稲津』(137)啄木忌

【句集『稲津』(137)】風に飛ぶ原稿用紙啄木忌 窓際に置いた原稿が、開けた窓から入る風に飛ばされて散乱した。一枚一枚拾い集める。原稿は進まず、頬杖をついて物思いにふける。 頬骨の輪郭あらは夏きざす 夏痩せなのか、顔の頬骨がはっきりわかる。この…

句集『稲津』(136)八幡神社

【句集『稲津』(136)】林間に藤の花房贅尽くす4月になると山のあちこちに藤の花が咲く。山に紫色の滝かかったような豪華な景色が出現し、眼福を味わうことができる。山桜もいいが、山藤も捨てがたい。 緑蔭や八幡神社立つところ 八幡神社は日本全国いたる…

句集『稲津』(135)竹の秋

【句集『稲津』(135)】ふりしきる無数の時間竹の秋 竹の葉が桜の花のように舞いながら落ちていく。それはもう数えきれないほどの数。竹の幹を離れ地に着くまでの、それぞれの竹の落葉の時間。 蝌蚪の国消えて雨足強まれる 雨が降り出し、集まって泳いでい…

句集『稲津』(134)揚羽蝶

【句集『稲津』(134)】揚羽蝶わが後ろから現れる 揚羽蝶が不意に目の前に現れた。予期せぬ不意討ちに驚く。ふらふらとどこへ飛んでいくのかと、視線が蝶を追いかける。それも一時、最後は行方知れず。 泣き疲れ子は眠りをり弥生尽 電車の中でぐずり泣きし…

句集『稲津』(133)葛の花

【句集『稲津』(133)】葛の花道を覆ひて続きたる 葛は本当に繁殖力の強い植物で、葉は大きいし蔦は強く絡んで、草刈りの難敵である。山道は葛が占拠してすっかり覆われている。元に戻すのは大変な作業だろうな。 蘖や昔のことは知らないが 蘖(ひこばえ)…

句集『稲津』(132)百千鳥

【句集『稲津』(132)】売れ残る木蓮花を咲かせけり ホームセンターの園芸コーナーで売れ残った木蓮が花を咲かせていた。木蓮にしてみれば、売買の結果は自分に関係ないが、しかるべき所で開花したかっただろうな。 百千鳥林の中に集会場 林の中から聞こえ…

句集『稲津』(131)蝶結び

【句集『稲津』(131)】蝶結びしたる靴紐青き踏む 蝶結びにしたスニーカーで野遊び。気分は蝶のように軽やかで自由。さあ、どこまで行こう。またきた春を存分に楽しもう。何度も手を入れて直した句である。 春耕や光を土に混ぜ込みぬ 春は土を掘り起こし種…

句集『稲津』(130)花筏

【句集『稲津』(130)】 花筏詩人の詠みし数万句 詩人で俳句も作る人がある。清水昶もその一人。句集の後書きには3万5千句以上を詠んだとある。花筏を見ながら、詩人の紡いだ言葉の束を思う。 しばらくは落花のなかにたたずみぬ 桜の散りゆくさまを、たたず…

句集『稲津』(129)馬酔木

【句集『稲津』(129)】馬酔木咲く花房揺れて風の中 庭に馬酔木が植えてある。毎年花が咲き楽しませてくれる。馬酔木といえば水原秋桜子を思い出す。秋桜子の虚子への叛旗なくして現代俳句の広がりは無かった。 知らぬまの開花宣言チューリップ チューリッ…

句集『稲津』(128)黄水仙

【句集『稲津』(128)】黄水仙今日は一日雨降る日 朝から雨が降っている。天気予報では一日雨になる見込み。黄水仙の花が咲いた。雨に打たれながら凛として咲く姿は美しい。 野遊びや地面に坐り昼の飯 野外に遊びに出て、お昼ご飯の時間となる。地面に座り…

句集『稲津』(127)鬼饅頭

【句集『稲津』(127)】手土産の鬼饅頭に蓬の香 鬼饅頭は、地元の蒸し饅頭。蓬を入れて蒸したものは、春を感じさせる。饅頭の中には、小口にしたサツマイモが入っていて、スイーツ菓子として人気がある。 玄関に出迎へしたる雛飾 玄関にお雛様の置物が飾ら…

句集『稲津』(126)早口言葉

【句集『稲津』(126)】林より早口言葉春の鳥 春は囀の季節。家の周りには鳥の声が溢れている。鳥の鳴く声は、早口言葉のようだ。。鳥同士は意思疎通が出来るのだろうが、何を喋っているか人間にはわからない。 金柑の香り抜けたる鼻の筋 金柑は大好物であ…

句集『稲津』(125)西行忌

【句集『稲津』(125)】スニーカーにNIKE四文字西行忌 スニーカーの踵にはNIKEの文字。靴を履けば、日本各地を歩いた西行のようにどこへも行ける。日本の国には、まだ訪れたことのない美しい所が沢山ある。 蕗味噌や棚の奥から江戸切子 春の味覚である蕗味…