2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

句集『稲津』(96)恵方巻

【句集『稲津』(96)】後ろより人現れぬ梅真白 白梅が満開に咲いている。眺めているその後ろから、梅を見に人がやってき来た。白梅の今を盛りと咲く姿を、眼に納めて今年の春を堪能する。 黙々と形無くなり恵方巻 恵方巻という食べ物が全国版になったのはま…

句集『稲津』(95)綾取り

【句集『稲津』(95)】寒雀金網くぐり塀こえて 冬の寒い日でも雀たちは元気だ。金網をくぐり抜け、塀は軽々とこえて飛んでいく。飛びたいところを飛び、行きたいところへ行かなければ、生まれてきた甲斐がない。 春隣綾取りせがむ児の両手 電車で隣に若い母…

句集『稲津』(94)影法師

【句集『稲津』(94)】冴え返る車窓向かひに影法師 電車の窓ガラスに映しだされる自分の姿。もう一人の自分がそこにいる。ただじっと見ている。お互いに沈黙して何も語ることはない。 梅林にしばしとどまる日差しかな 梅の花が見頃の時期を迎えた。満開の花…

句集『稲津』(93)マフラー

【句集『稲津』(93)】大寒の夜走りゆく貨車の音 通勤の車が止めてある駐車場へ行く途中に踏切がある。踏切でいつも通過する貨車を待つ。轟音をあげて貨車が走り去る。夜に蠢くものの一つ。 マフラーを巻きて笑顔をとりもどす 寒さの厳しい日は、マフラーを…

句集『稲津』(92)初電車

【句集『稲津』(92)】2017年「風花」に移ります。三代の顔が見上げるどんどの火 どんど焼に集まる地区の人たち。爺さんとなった同級生が娘夫婦と孫を連れてやってくる。書き初めの習字紙を燃やし、燠火で餅を焼き、今年の無病息災を祈る。 初電車父と娘と…

句集『稲津』(91)神主

【句集『稲津』(91)】木屑入れ焚火ふたたび炎あげ 焚火する光景も少なくなった。「焚火だ、焚火だ」と歌った時代は昔のことになりつつある。木屑を放り込み火の勢いがよみがえると興奮する。 神主の礼深々と年明くる 地元の八幡神社の新年の祭礼に区長とし…

句集『稲津』(90)十六ビート

【句集『稲津』(90)】珈琲の皿に小さく冬日影 珈琲皿と珈琲カップ、喫茶店でのありふれた光景。午後の日差しはやわらかで、珈琲皿にできた小さな影。珈琲カップを手にして、残りの珈琲を口にする。 俎の十六ビート葱刻む 台所に入って調理中。葱を刻む包丁…

山藤

藤の花がいまが盛りである。我が家の前の林にも藤の花が滝が流れるように絢爛豪華に咲いて楽しませてくれる。藤の花は万葉集の昔から日本人に愛されてきた。枕草子の八十四段には「めでたきもの」として「色あひ深く花房長く咲きたる藤の花、松にかかりたる…

句集『稲津』(89)燠の火

【句集『稲津』(89)】燠の火の白くなりゆく牡丹鍋 囲炉裏の自在鉤にかけた牡丹鍋を囲んで仲間と薬食い。炭火の火勢も衰え、灰となって白く表面を覆いだす。牡丹鍋はまだあり、酒もまだある。久闊をあたため、話は尽きない。 冬の蝶影を配りて漂へる ふらふ…

定金冬二『一老人』

昨日の仙崖和尚の歌の老人は一般的な老人の把握という感じ。川柳の定金冬二『一老人』から、現代の老人の六句を抜き書きしてみる。 一老人 交尾の姿勢ならできる音たてて転べ誰かが見てくれるぼくが倒れたのは引力のせいなのか笑われているのでこちらから笑…

句集『稲津』(88)葉鶏頭

【句集『稲津』(88)】行く秋やジッパー強く引き上げる 秋も終わりに近づくと、次第に肌寒さを感じるようになる。防寒のために上着のジッパーを引き上げる指先にも、力が入る。万全の備えで寒さに立ち向かう。 葉鶏頭夕暮れはすぐそこにあり 真っ赤な葉鶏頭…

老人六歌仙

読書中の坪内稔典『モーロクのすすめ』に載っていたものの転載。 江戸時代の禅僧である仙崖和尚の作。皺がよる黒子が出来る背は縮む頭ははげる毛は白くなる手は震う足はよろめく歯はぬける耳は聞こえず目は疎くなる身に添うは頭巾襟巻杖眼鏡たんぽ温石尿瓶孫…

句集『稲津』(87)毛糸帽子

【句集『稲津』(87)】すっぽりと毛糸帽子をかぶる人 これは見たままを詠んだ句。電車の席に毛糸帽子をかぶって座っている人がいた。実に暖かそうで、「すっぽり」という形容詞がぴたりとはまった。 家々を光に包み十三夜 十三夜の月が下界を照らし出し、点…

ここで一句

坪内稔典の『モーロクのすすめ』(岩波書店、2015年)を読んでいる。ネンテン先生が、「ここで一句」と突然に言われたら困るのであると正直に書いていて、これはよくわかる。ヘボ俳人ではあるが、俳句をしていることは知られているので、旅行などに行くと観…

句集『稲津』(86)虫の闇

【句集『稲津』(86)】コンビニの裏に広がる虫の闇 地元のコンビニは畑をつぶしてその上に立てられている。周りには建物もなく田畑があるばかり。秋の夜には果てることの無い虫の鳴き声と暗闇に取り囲まれる。 蓑虫の頑なにして家を守る 「守る」は「もる」…

句集『稲津』(85)スクワット

【句集『稲津』(85)】万物に蜩の声しみゆけり 蜩の鳴き声が夏の終わりを告げる。その鳴き声は全ての物に沁みていく。世の中に存在するあれもこれも、慌ただしく過ぎゆくものを蜩の声が覆う。 長月や夜のスクワット続きけり 真夜中にスクワットを黙々と続け…

「美殿町本通り」

本日岐阜市柳ヶ瀬で開催の「美殿町本通り」に出かける。11時くらいから晴れる天気予報だったが、空は青いが通り雨と風もあり結構厳しい環境。徒然舎で不要本を処分して、代わりに文庫本を2冊購入。雨から逃げるように退散しました。 春の雨本のイベント早仕舞

句集『稲津』(84)金亀子

【句集『稲津』(84)】金亀子ぶつかることを止めぬなり 蛍光灯に飛んで来たコガネムシは、電灯にぶつかっていく音が鳴り響く。光に興奮しているのだろうか。コガネムシは体当たりを止めようとしない。 夏場所や廻しを叩くなほ叩く テレビでは夏場所の相撲中…

劇作家・清水邦夫逝く

劇作家の清水邦夫が15日に84歳で老衰のため亡くなった。 1960年代後半から70年代初めにかけて、演出家の蜷川幸雄と「真情あふるる軽薄さ」「ぼくらが非情の大河をくだる時」などの作品を発表し、若い世代の熱い支持を得た。 私は『火のようにさみしい姉がい…

句集『稲津』(83)花火

【句集『稲津』(83)】草いきれハンカチ顔を一周す 身もうだる暑さである。ハンカチで滴る汗を拭う。日本という国はいつからこんな暑い国になったのか。最高気温を頻繁に記録する多治見市は私が住む市から二駅目にある。 火の玉のふるへて上がる花火かな 花…

句集『稲津』(82)女郎花

【句集『稲津』(82)】白鷺の両翼延びて陽に入る白鷺が空を飛んでいる。翼を一杯に拡げて旋回している。視界と太陽の間に入って、光の中に白鷺が消えた。燦然と輝くものが短かにある。 女郎花今日また少し背が伸びて 女郎花を花壇に植えていた。少しずつ背…

句集『稲津』(81)シャーペンの芯

【句集『稲津』(81)】鳥の声昨日と違ふ夏の空 山の麓に住んでいるので、鳥の声が聞こえない日はない。今日聞く鳥の声は、昨日聞いたものと違う。鳥たちも同じ所にいるわけではない。広がる空の何処へでも飛んでいける。 旱空シャーペンの芯よく折れる 暑い…

要介護認定

市役所の高齢福祉課から介護保険の要介護認定等更新申請の書類が送られてくる。受付期間の指定があって期間は一週間。本日会社を休んで申請手続きをする。介護保険証がいるので、預かりとなっている母の入所する施設へもらいにいく。手続き自体は迅速に終わ…

句集『稲津』(80)立葵

【句集『稲津』(80)】行く人と背丈並ぶや立葵 会社の前の歩道にある花壇に、初夏には立派な立葵が咲く。立葵は背丈がある花で楽に人より大きくなる。通行人が立葵に見送られて足早に歩いて行く。 つば広の帽子目深く街薄暑 暑くなりそうなので帽子をかぶり…

句集『稲津』(79)観覧車

【句集『稲津』(79)】観覧車元に戻りぬ夏の雲 刈谷のサービスエリアにある観覧車に乗ってできた句。ゆっくりと観覧車は回り元の位置に戻ってくる。空と雲と観覧車、全部合わせて夏の景色。 本の背を眺めて独り蚊遣香 書斎でも本屋でも図書館でも、ずらりと…

押尾コータロー

NHK BS4K・BSプレミアム 「生中継!一目千本 吉野の桜」 を見た。番組に出演していたソロギタリストの押尾コータローの演奏に惚れ惚れとし、アマゾンで最新CD『PASSENGER』を注文。12日に届き、ギターの音色を楽しむ。 花散るやギター爪弾く人ありし

句集『稲津』(78)黒ビール

【句集『稲津』(78)】カモシカも通る道なり青時雨早朝、通勤で自動車を走らせる道に何か横切るものがある。体が大きいと思ったらカモシカである。道の下にある川へ向かうところだったのだろうか。遭遇したのは初めてのことだった。 黒ビール自分で自分褒め…

松山英樹

松山英樹が、マスターズ3日目を終えて単独首位。しかも2位との差は4打差ある。否が応でも、日本人初のメジャー制覇の期待が高まる。最終日は月曜日の朝なので決着がつくまで、テレビにしがみ付く訳にはいかないが、ドキドキさせてもらえることは間違いない。…

句集『稲津』(77)ヒヤシンス

【句集『稲津』(77)】ヒヤシンスさらに強まる雨の音 家の玄関にあるヒヤシンスの鉢。外は雨、また一段と雨音が強くなり、振りが激しくなった。ヒヤシンスの名は、ギリシャ神話の美青年ヒュアキントスに由来する。 胸元を大きく広げ夏来る 初夏の頃になると…

池江璃花子

競泳の日本選手権で池江璃花子が、女子50メートル自由形も優勝。100メートルバタフライ、同自由形、50メートルバタフライに続く「4冠」を達成した。 つぎつぎと日本新記録をつくり女子水泳界の頂点にいた池江璃花子が白血病と報道された時、奈落の底…