2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

句集『稲津』(124)猫の恋

【句集『稲津』(124)】探梅行名札のついた杖をつき 老人が手にしている杖には名札がついている。認知症対策なのだろうか。美しい花を見て何もかも忘れてしまうのもいいかもしれない。 猫の恋暗き所が主戦場 猫がさかんに鳴いているが姿は見えない。暗い所…

句集『稲津』(123)バレンタイン

【句集『稲津』(123)】妻からのバレンタインのチョコ一つ バレンタインのチョコレートも妻からの義理チョコだけ。もらえるだけマシとしましょう。と言ってはみたものの、昔は持てたという記憶はない。チョコレートが苦い。 梅林や空へ空へと向かふもの 梅…

句集『稲津』(122)宮の渡し

【句集『稲津』(122)】波静か宮の渡しに鴨の列 名古屋市熱田の蓬莱軒へ行った時、近くの宮の渡しまで散策。海には鴨が列をなして浮かんでいた。芭蕉の「海くれて鴨のこゑほのかに白し」を口ずさむ。 白梅の蕾眺めてまた眺む 散策しながら、梅の花の開花状…

句集『稲津』(121)木端微塵

【句集『稲津』(121)】道淋し木端微塵に氷割る 冬の道を歩くのは、淋しさが漂う。膚を刺す寒さと、蕭条と続く風景がそう思わせるのだろう。道にできた氷を木端微塵になるまで割っていく。 寒風や線路の上を保全人 身を切るような寒さの中、線路の上を保全…

句集『稲津』(120)劇団員

【句集『稲津』(120)】古暦劇団員でありし頃 大学生時代、学生劇団『新生』に入り4年間芝居漬けの日々を送った。アルバイトも舞台美術の会社で装置製作や劇場に出入りした。四畳半の下宿は劇団員のたまり場となった。 冬の夜一番星の遠く見ゆ 冬は日が短い…

句集『稲津』(119)大寒波

【句集『稲津』(119)】「永日 2018」に移ります。年新た犬舎を揺らし吼える声 トイプードルを家飼いしていた。新年早々に、今にある犬舎に前足をかけて、しきりに吼える声が聞こえる。やってきた新年に吼えたのかもしれない。 大寒波轍つきたる白き道 寒冷…

葬儀を終えて

23日、母の葬儀を終える。16日に入院してから怒濤の一週間だった。 のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり 斎藤茂吉『赤光』より

句集『稲津』(118)フライドポテト

【句集『稲津』(118)】年忘れフライドポテトの山崩す 忘年会の宴席に出された山盛りのフライドポテト。次から次へと手がのびてきて、元の形はどんどん崩れてゆく。ビールを飲み干して一年の労をねぎらう。 大晦日ずらりと吊り輪空き車輌 大晦日の電車は、…

句集『稲津』(117)牡丹鍋

【句集『稲津』(117)】節々をのばし勤労感謝の日 関節を伸ばしてストレッチ。肉体を使う仕事だけが働くということではないが、体を 動かすことは大切。健康で働けることに素直に感謝。 自在鉤揺らしてつぐや牡丹鍋 一年に一度、馴染みが集まり牡丹鍋を囲む…

句集『稲津』(116)寒稽古

【句集『稲津』(116)】閉店の什器山積み冬ざるる コンビニの店舗が閉店となった。競争に敗れたのだろう。店の外に、使われていた店舗什器が山積みされ処分を待っている。閉店のよくある風景だが、もの淋しい。 寒稽古カートで運ぶ剣道具 電車に乗り込んで…

垂乳根

本日、母は生涯を閉じた。86歳だった。 一瞬にしてみな遺品雲の峰 櫂未知子の句。

句集『稲津』(115)桝酒

【句集『稲津』(115)】桝酒に表面張力新走り 桝酒を注文する。なみなみと新酒が桝に注がれて、こぼれるかこぼれないかのぎりぎりを表面張力で持ちこたえている。さあ、いただきましょう、飲みましょう。 玉手箱あけるがごとく味噌煮込み 土鍋で煮込んだ味…

句集『稲津』(114)十五夜

【句集『稲津』(114)】十五夜の静かに光る屋根瓦 十五夜の月が見える。月光は眠りについた人里をあまねく照らす。屋根瓦が月の光を反射して光っている。静かな夜がしんしんと更けてゆく。 飼い犬の顎に白髪や日向ぼこ 飼っていたのはこげ茶のトイプードル…

句集『稲津』(113)金木犀

【句集『稲津』(113)】出口なし完全包囲虫の声 フランスの小説家サルトルの作品に『出口なし』というのがあった。虫の音は幾重にも取り囲み、抜け出す所はない。完全に包囲されている。 宅急便金木犀の香を入れぬ 宅急便の受渡にドアを開けると金木犀の香…

句集『稲津』(112)柿落葉

【句集『稲津』(112)】夕べには見渡すかぎり刈田かな 兼業農家が多いので稲刈りも土日の休日に一斉に行われる。朝にあった稲穂は収穫されて、夕方には刈田が一面に広がっている。田舎の田園風景は一日で転換する。 川底をゆつくり流れ柿落葉 自宅も実家も…

句集『稲津』(111)羽交締め

【句集『稲津』(111)】二階より高きところを赤蜻蛉 二階の窓を開けると赤蜻蛉が飛んでいた。蜻蛉はどれ位の高さまで飛ぶことができるのだろう。休む場所や外敵からの護身を考えると、どこまても飛べないか。 深々と息する秋が羽交締め 深呼吸する私を秋の…

句集『稲津』(110)向日葵

【句集『稲津』(110)】白鷺の羽をたたみし青田かな 田植えがすみ順調に苗が育つと、田んぼは一面の緑になる。空を飛んでいた白鷺も降り立ち、羽をたたんで一休み。吹く風が涼しく気持ちよい。 向日葵の種どつさりと貰ひたる 向日葵は夏を代表する花である…

句集『稲津』(109)かき氷

【句集『稲津』(109)】かき氷美しきもの崩しゆく ガラス器に山のように盛られたかき氷に頂上からかけられたシロップが染みて白い氷の塔を染めあげる。美しいオブジェを突き崩し味わう快楽の世界を堪能する。 たちまたに入道雲は空を埋め 夏の空に現れた入…

句集『稲津』(108)山百合

【句集『稲津』(108)】山百合の花立ち上がりわが故郷 夏、山百合が町のそこかしこに姿を現す。 家の庭に、小学校のグランドの法面に、県道の山裾に。白く長い花弁とすくっと立つ山百合はふる里の花。 夕焼空追ひかけ走る海岸線 遥か彼方に見える夕焼けを追…

句集『稲津』(107)威風堂々

【句集『稲津』(107)】 飛沫あげ波従へてボート漕ぐ 長野県の天竜峡で、ゴムボートに乗り川を下るラフティングを体験する。オールを漕いで波に乗り込み、川の流れに沿って蛇行し、飛沫を上げて進んで行く爽快感はたまりません。 黄金虫威風堂々まぐはへる …

句集『稲津』(106)無言館

【句集『稲津』(106)】流れ星信州上田の無言館 長野県上田市にある戦没画学生の作品が展示されている『無言館』。彼等に好きなだけ絵を書かせてあげたかった。人間の儚さと愚かさを思う。 夏の山緑に翠なほ碧 社員旅行で長野県の昼神温泉に行った時、バス…

句集『稲津』(105)水すまし

【句集『稲津』(105)】梅雨寒や水滴走るガラス窓 梅雨の時期に入り、雨の日が続く。ガラス窓に雨があたり、水滴が流れている。梅雨の日の手持ち無沙汰、気持ちも沈み肌寒い。 水すましかけあがりたる空の上 池の水面を水すましが泳いでいる。その水面には…

句集『稲津』(104)薄暑光

【句集『稲津』(104)】グランドに人影のなし薄暑光 学校のグランドには誰もいない。広々とした空間がひろがり、初夏の太陽光線がまぶしい。子供達は授業中なのだろう、歓声もざわめきも今は無い。 百日紅何して遊ぶ誰誘ふ 『梁塵秘抄』の「遊びをせんとや…

句集『稲津』(103)立葵

【句集『稲津』(103)】 若葉風啄みやめぬ雀たち 会社の近くの公園を歩いていて見かけた風景。地面に降り立った雀たちは、競うように、しきりに草を啄んでいる。飛ぶためには、食べなければならないのだ。 立葵髪なびかせて女学生 舗道の花壇には、背の高い…

句集『稲津』(102)地下鉄

【句集『稲津』(102)】地下鉄や涼しく誰も迎へ入れ 熱田神宮に参拝した帰りに、西高蔵の地下鉄の入口を見て詠んだ句。暑い夏日で、地下鉄は、暑さをしのぐ格好の場所になった。しかも、誰でも分け隔てなく迎えてくれる。 冷蔵庫閉め暗闇に戻しけり 冷蔵庫…

句集『稲津』(101)花虻

【句集『稲津』(101)】遅き日や垣根の蔦は絡みあふ 春になると、昼間が長くなり日の入りも遅くなったことを実感する。垣根には伸びた蔦がからみ、まるで勢力争いをしているかのようだ。 花虻や脇目もふらず突入す 花の中に音がすると思えば、中から出てく…

句集『稲津』(100)夜光虫

【句集『稲津』(100)】漆黒の闇先導す夜光虫夜の海に光るものは夜光虫。波に光の帯が発生し、幻想的な光景が生まれる。真っ暗な世界で、夜光虫の光が波を先導しているかのようだ。 苜蓿繁る葉の下影生まれ 苜蓿はシロツメクサの俗称で、クローバーと同じだ…

句集『稲津』(99)夜の塾

【句集『稲津』(99)】新学期煌々として夜の塾 4月からは新学期、学年が変わり新しいスタートを切る。駅前にある学習塾の明かりが夜に煌々と灯っている。建物の中には勉強に励む子供達がいる。 かの空の一点となりつばくらめ つばめが空を自由自在に飛び交…

句集『稲津』(98)永久歯

【句集『稲津』(98)】永久歯抜かねばならず花曇 上の歯が1本グラグラになり抜くことになった。原因は歯槽膿漏である。残念だが、元に戻すことはできず仕方がない。抜いた後は、部分入れ歯を作ってはめている。 花を背に高々上げし自撮り棒 岡崎市の岡崎公…

句集『稲津』(97)雛納め

【句集『稲津』(97)】春の星三々五々と燈火消ゆ 春の夜、星は天に燦々と輝く。地上では夜が更けるに従って、ぽつりぽつりと窓の灯りが消え、人は眠りについていく。夜の静寂に世界は充たされるだろう。 雛納めジャズを流して日曜日 音楽をかけながら雛人形…