2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

虚子探訪(65) 落花

【虚子探訪(65)】 「濡縁にいづくとも無き落花かな」 濡縁にどこからか桜の花びらが二三片舞い落ちてきた。あたりには桜の木は見当たらない。どこから飛んできたのであろう。自句自解では『時間は夕方でも明け方でもいい。その濡縁の落花を見た人の微かな驚…

虚子探訪(64)夜雨、累計アクセス件数が1万件突破!

【虚子探訪(64)】 「草摘みし今日の野いたみ夜雨来る」 大正2年。『鎌倉の野に草を摘んだ日のことであった。夜半眼がさめて見ると雨の降つてゐる音がする。天は雨を降らせて今日摘み荒らした野を再び蘇らせるのである。とさう考へることによつて私は安い眠に…

虚子探訪(63) 一つ根

【虚子探訪(63)】 「この後の古墳の月日椿かな」 何百年の歴史を経た古墳を眼前にして、この後に続いていく月日を思う。悠久の時間の流れを作者は感じているのである。古墳には椿の花が美しく咲いているのだろう。 「一つ根に離れ浮く葉や春の水」 大正2年。…

虚子探訪(62) 木の芽

【虚子探訪(62)】 「大寺を包みてわめく木の芽かな」 大きな寺を包み込むかのように、周囲を取り囲んで樹木が植生している。春になり一斉に木々が芽吹きの時をむかえたのである。その賑わしいような状態を「わめく」と表現したのである。生命の躍動感、風の…

虚子探訪(61) 闘志

【虚子探訪(61)】 「先人も惜みし命二日灸」 大正2年1月19日 。大平山句会。栃木郊外大平山茶亭。 「二日灸」は陰暦2月2日と8月2日にすえる灸。この日にすえれば一年中健康で無事であるといわれる。先人たちも健康で長生きをしたいと行われてきた二日灸であ…

虚子探訪(60) 死神

【虚子探訪(60)】 「死神を蹶(け)る力無き蒲団かな」 この頃、虚子はチブスの療養中であり、予後が思わしくなく衰弱していた。死神を蹴とばす力もなく弱って蒲団の中に寝ているよという自虐の一句。 「その日その日死ぬる此身と蒲団かな」 大正12年1月19日…

虚子探訪(59) 法の城

【虚子探訪(59)】大正時代の俳句の鑑賞にはいります。 「三世の仏皆座にあれば寒からず」 「三世」とは仏教用語で、前世・現世・後世をいう。仏様が鎮座しておられるので、寒いとは感じないよ、という句意。達観したような、精神の安定を求めたような句。 「…

虚子探訪(58) 芭蕉

【虚子探訪(58)】 「園に聞く人語新し野分跡」 明治41年。秋。村上薺月来小会。 園の中で交わされる人の会話が、新鮮な感じがする野分の去った跡であることだ。台風一過の快晴となった風景には爽やかさと新しさがある、その感じを作者は人語に感じたのである…

虚子探訪(57) 上京

【虚子探訪(57)】 「螽(いなご)とぶ音杼に似て低きかな」 明治41年8月25日。日盛会。第23回。 「杼」は「をさ」と呼ばれ、機織りで横糸を通す道具のこと。「イナゴの飛ぶ音が、機織り道具の杼に似ていて、杼よりも低い音だなあ。」という句意。螽も織機も見…

虚子探訪(56) 去来

【虚子探訪(56)】 「凡そ天下に去来程の小さき墓に参りけり」 向井去来は蕉門十哲の一人。俳諧西の奉行と呼ばれ、『去来抄』などを残し虚子も尊敬していた。去来の墓は京都嵯峨野の落柿舎の北側にあり、去来と二文字のみが書かれた小さな墓石である。去来ほ…

虚子探訪(55) 仲秋

【虚子探訪(55)】 「仲秋の其一峰は愛宕かな」 仲秋の題詠。「仲秋」は秋を三期に分けた中期。陰暦八月をいう。仲秋の行楽地に適した最も良き山は愛宕山であるとの句意。 「仲秋や院宣をまつ湖のほとり」 「院宣」は上皇または法皇の宣旨をいう。仲秋に院宣…

虚子探訪(54) 新涼

【虚子探訪(54)】 「新涼の驚き貌に来りけり」 「新涼」は、立秋以後に実際に感じる涼しさをいう。新涼が驚いたような顔をしてやって来たよ、と擬人化して初秋の季節を表現した。 「草市ややがて行くべき道の露」 明治41年8月14日。「草市」は、陰暦七月十…

虚子探訪(53) 金亀子

【虚子探訪(53)】 「ぢぢと鳴く蝉草にある夕立かな」 明治41年8月9日。「ぢぢ」と蝉の鳴く音。近くから聞こえる。どこにいるかとさがしたら草に止まっているのだ。夕立の雨がふりだした。視点は自然に移っていき、夕立に驚いている蝉の姿が目に浮かぶ。 「羽…

虚子探訪(52) 曝書

【虚子探訪(52)】 「岸に釣る人の欠伸や舟遊」 明治41年7月30日。蕪むし会。第6回。 舟遊びの舟から、岸辺で釣りをしている人が欠伸をするのが見えた。長閑な時間が流れていく。 「曝書風強し赤本飛んで金平(きんぴら)怒る」 「曝書」は本の虫干しのこと。昔…

虚子探訪(51) 葛水

【虚子探訪(51)】 「葛水にかきもち添へて出されけり」 明治41年。葛水(葛湯を冷やしたもの)にかき餅(軽く焼いた醤油味の菓子)が添えられて出された。これはメニューの取り合わせとして、かき餅が意外だったのだろうか。よく解らない。 「駒の鼻ふくれて動く…

虚子探訪(50) 里内裏

【 虚子探訪(50)】 「里内裏(さとだいり)老木(おいき)の花もほのめきぬ」 明治41年。「里内裏」は皇居の火災・方違(かたたが)えなどにより内裏の外に仮に設けられた皇居をいう。多く大臣邸や摂政・関白の私邸等をあてられた。仮の皇居となった邸宅に咲く桜の…

虚子探訪(49) 酒旗

【 虚子探訪(49)】 「老僧の骨刺しに来る藪蚊かな」 明治40年。刺すところは骨しかないような、痩せ老いた僧のところへ藪蚊が飛んできた。刺されるぞ、ご用心。「骨刺しに来る」が面白いと、虚子はこの句を残したのかもしれない。 「酒旗高し高野の麓(ふもと…

虚子探訪(48) 椎大樹

【 虚子探訪(48)】 「秋空を二つに断てり椎大樹」 明治39年10月15日。高く広々と澄み渡る秋の空を二つに切り分ける、それはそれは大きな椎の樹。「二つに断てり」の中7に常緑樹である椎の生命力が感じられ、背景に広がる秋空の透明感が心地よい。 「煮ゆる時…

虚子探訪(47) 艶な砧

【 虚子探訪(47)】 「後家がうつ艶な砧に惚れて過ぐ」 明治39年9月24日。 「砧を打つ後家さんの姿が色っぽくてねえ、惚れちゃったよ」という虚子がいる。この後家さんは、余程イイ女だったんだろうねえ。 「老の頬に紅潮(くれないさ)すや濁り酒」 明治39年10…

虚子探訪(46) 賢夫人

【 虚子探訪(46)】 「秋扇や淋しき顔の賢夫人」 明治39年。秋とはいえ残暑の残る日に扇を使っているのは、淋し気な顔をした理性的で賢そうな夫人である。秋扇には、やがて捨てられる、すでに古くなったという感じがあり、淋しき顔とシンクロしていくのである…

虚子探訪(45) 桐一葉

【 虚子探訪(45)】 「桐一葉日当りながら落ちにけり」 「桐一葉」は秋の季語。『淮南子』の「梧桐一葉落ちて天下の秋を知る」に由来する。初秋に桐の大きな葉がゆっくりと落ちて、秋の到来を感じるのである。この句の眼目は「日当りながら」の中7につきる。…

虚子探訪(44) 燈籠

【 虚子探訪(44)】 「六十になりて母無き燈籠かな」 明治39年。六十歳になって母がない盆燈籠であることよ。他人の境遇を詠んだ句。六十歳ともなれば人生も終わりに近く、その時母を亡くしたのである。母とともに世間を渡ってきた時間への思慕と追憶が感じら…

虚子探訪(43) 蝙蝠

【 虚子探訪(43)】 「すたれ行く町や蝙蝠(こうもり)人に飛ぶ」 明治39年7月2日。衰退しさびれゆく町で、コウモリが人に向かって飛んできた。荒涼とした風景。 「夏痩の身をつとめけり婦人会」 明治39年7月16日。夏痩せした女性が、婦人会の活動に参加してい…

虚子探訪(42) 灯取虫

【 虚子探訪(42)】 「上人の俳諧の灯や灯取虫」 明治39年6月19日。碧梧桐送別句会。星ケ丘茶寮。 寺の上人の庫裏の部屋には灯が点り、静かな夜を句作をして過ごされている。その揺れる灯に灯取り虫が寄ってきた。上人は東本願寺法王の大谷句仏のことで、碧梧…

虚子探訪(41) 麻

【 虚子探訪(41)】 「麻の中月の白さに送りけり」 麻畑の中の道を、夏の夜の白い月光下に人を送りだした、という句意。月夜の風情を感じる句。 「麻の上稲妻赤くかかりけり」 明治39年5月31日。星ケ岡茶寮小集。人の背丈以上に茂る麻畑に、稲妻の閃光が走り…

虚子探訪(40) 主客閑話

【 虚子探訪(40)】 「寂(せき)として残る土階や花茨」 明治39年5月21日。何かの廃墟であろうか。物寂しくひっそりと、土を盛り作られた階段が残されている。今は使われることもなく、あたりには茨の花が咲き乱れるばかりである。 「門額の大字に点す蝸牛かな…

虚子探訪(39) 藤の茶屋

【 虚子探訪(39)】 「藤の茶屋女房ほめほめ馬士(まご)つどふ」 明治39年4月23日。「馬士」は、馬子とも書き、荷物運送の馬を曵くことを事業とするもの。馬子には街道の茶店が安息場であった。藤棚のある茶店に、そこの女房をほめながら馬子たちが集まってく…

虚子探訪(38) 桜狩

【 虚子探訪(38)】 「草に置いて提灯ともす蛙かな」 明治39年4月2日。草の上に提灯を置き灯をつける。夜の闇に蛙の鳴く声が聞こえる。 「山人の垣根づたひや桜狩」 明治39年。山住まいの人々の家の垣根づたいに、桜の花を観て歩いた。

虚子探訪(37) 恋かるた

【 虚子探訪(37)】 「座を挙げて恋ほのめくや歌かるた」 明治39年1月6日。一座の空気にほのかに恋心が漂う歌かるたの会であるとの句意。未婚の男女が集まり遊ぶかるた会には、当然恋愛感情はつきもの。 「垣間見る好色者に草芳しき」 『喜寿艶』自解には「…

虚子探訪(36) 法隆寺

【 虚子探訪(36)】 「花提げて先生の墓や突当り」 明治38年8月21日。鴨涯、松浜と共に。供花を提げて亡き先生の墓参りをした。先生の墓は墓地の突き当りにある。先生がどういう人なのか、墓参りした人は誰なのかは省略されている、あとは想像するしかない。…