2015-03-01から1ヶ月間の記事一覧

虚子探訪(35) 長き面輪

【 虚子探訪(35)】 「相慕ふ村の灯二つ虫の声」 明治38年。お互いを慕い合うかのように、村の人家に灯りが2つ点いた。あたりは一面虫の鳴く声でみたされている。 「もの知りの長き面輪(おもわ)に秋立ちぬ」 明治38年8月17日。王城、松浜と共に。物知りの長…

虚子探訪(34) 蜘蛛

【 虚子探訪(34)】 「客人に下れる蜘蛛や草の宿」 明治38年。「草の宿」は、草ぶきの粗末な家を言い、自家の謙称で使用することもある。粗末な我が家の来客の頭上に蜘蛛が下りてきたよ、という句意。古今和歌集収録の衣通姫が帝の御出でをお待ちして詠んだ『…

虚子探訪(33) 行水の女

【 虚子探訪(33)】 「蚊遣火や縁に腰かけ話し去る」 明治38年7月28日。癖三郎、松浜と共に。 あの人は、蚊遣火を焚いた縁側に腰かけよもやま話をして去っていった。 「行水の女にほれる烏かな」 明治38年。行水をする女を見ているカラス、別嬪さんに惚れちま…

虚子探訪(32) うき巣

【 虚子探訪(32)】 「うき巣見て事足りぬれば漕ぎかへる」 「うき巣」は、浮巣で夏の季語。カイツブリは、梅雨の前後に水草の茎等を集めて湖沼の水面に巣を作る。藻等が無造作に寄せ集められ、その上部が少しへこんでいる程度のものであるため、普通の人には…

虚子探訪(31) 法師蝉

【 虚子探訪(31)】 「発心(ほっしん)の髻(もとどり)を吹く野分かな」 「発心」は仏を信じる心になること、出家することをいう。「髻」は頭髪を集めて束ねたところ。何か世を儚む事情があり出家するのだが、まもなく剃髪して切り取られる髻に野分の強い風が吹…

虚子探訪(30) 夏花

【 虚子探訪(30) 】 「むづかしき禅門出れば葛の花」 明治37年。難解な教義の禅宗の寺院の門を出ると、葛の花が咲いていた。 「或時は谷深く折る夏花(げばな)かな」 明治37年。ある時は谷深いところでも折る夏花である、との句意。安居は陰暦四月十六日から…

虚子探訪(29) 大海のうしほはあれど

【 虚子探訪(29) 】 「御車(みくるま)に牛かくる空やほととぎす」 明治37年5月25日。徳上院例会。「御車」は牛車(ぎつしや)のことで、「御所車」ともいう。「牛かくる」は牛を轅(ながえ)といわれるつなげる車のかじ棒にくくりつけることをいう。御所車に牛を…

虚子探訪(28) 藤波

【 虚子探訪(28) 】 「裏山に藤波かかるお寺かな」 明治37年4月25日。徳上院例会。お寺の裏山は藤の花が満開であると藤を嘗美した句。 「ほろほろと泣き合ふ尼や山葵漬」 明治37年。山葵漬がつーんと鼻にきて尼さんたちの眼に浮かんだ涙を、うまく活写。「ほ…

虚子探訪(27) 茶の花

【 虚子探訪(27) 】 「茶の花に暖き日のしまひかな」 明治36年。茶の花が咲くと暖かな日は終了し、本格的な冬の寒さが到来する。 「坂の茶屋前ほとばしる春の水」 明治37年。坂道にある茶屋の前を、ほとばしるように勢いよく春の水が流れていく。春が来た。

虚子探訪(26) 瓢箪の窓

【 虚子探訪(26) 】 「瓢箪の窓や人住まざるが如し」 明治36年。窓をふさぐように沢山の瓢箪がぶら下がり、人も居住していないかのような光景となっているなあ。 「書中古人に会す妻が炭ひく音すなり」 明治36年。読書に夢中になり本に書かれた昔の人と出会…

虚子探訪(25) 眼中のもの皆俳句

【 虚子探訪(25) 】 「秋風や眼中のもの皆俳句」 明治36年。9月に河東碧梧桐「ホトトギス」に温泉百句を載せる。10月に虚子は「現今の俳句界」を書き「温泉百句」論争が始まった。虚子29歳の作品。俳句=世界とする、自らの生涯を象徴するような印象鮮やかな…

虚子探訪(24) 葛水

【 虚子探訪(24) 】 「葛水(くずみず)に松風塵を落すなり」 明治36年。「葛水」は葛湯を冷やした夏の飲み物。松の木に吹く風の運んだ塵が葛湯に入った、風流なことだなあとの感慨を句に。 「接待の寺賑はしや松の奥」 明治36年。松の木の奥にあるお寺から客…

虚子探訪(23) 花衣

【 虚子探訪(23) 】 「花衣脱ぎもかへずに芝居かな」 明治36年。「花衣」は花見に着ていく着物のこと。花見に行き、着替えることなく芝居に出かけた。忙しいことです。ひょっとしたら、お気に入りの着物だったのかもしれない。花咲く春の浮き浮きした女性の…

虚子探訪(22) 鴨足草

【 虚子探訪(22) 】 「危座兀座(きざこつざ)賓主いづれや簞(たかむしろ)」 明治35年7月27日。虚子庵例会。 「危座」(きざ)は正しく座ること、「兀座」(こつざ)は動かずにじっと座ること。「賓主」は客と主人のこと。「簞」(たかむしろ)は竹の表皮や葦などを…

虚子探訪(21) 木瓜の花

【 虚子探訪(21) 】 「肌脱いで髪すく庭や木瓜の花」 明治35年。庭で肌脱ぎになって髪を梳く女性、木瓜の花が美しい。もちろん女性も。「木瓜の花」は春の季語。 「打水に暫く藤の雫かな」 明治35年?或は32年又は34年か。藤の木から雫が垂れて、しばらく打…

虚子探訪(20) 乳房、ブログ400回到達!

【虚子探訪(20)】 「帷子(かたびら)に花の乳房やお乳の人」 明治34年。「帷子」は麻などで仕立てた盛夏用の着物。帷子を着た女性が、桜の花のように美しい乳房を含ませて子供に授乳している様子を句にした。 「山寺の宝物見るや花の雨」 明治35年。桜が咲く…

虚子探訪(19) 遠山に日の当りたる

【虚子探訪(19)】 「遠山に日の当りたる枯野かな」 明治33年11月25日。虚子庵例会。遠くに見える日の当たっている山と、足元に広がる枯野の対比。どこにでもあるような冬景色に、静謐な時間が流れていく。遠山にさすひかりは希望を象徴しており、中7「当りた…

虚子探訪(18) 幟

【虚子探訪(18)】 「雨に濡れ日に乾きたる幟(のぼり)かな」 明治33年。端午の節句には、布製の旗の一種である幟をたてて子の成長を祝う。「雨に濡れ」「日に乾き」と対句表現にしたため、一句が担う時間が長いものとなっている。 「煙管(きせる)のむ手品の…

虚子探訪(17) 稲塚

【虚子探訪(17)】 「稲塚にしばしもたれて旅悲し」 明治32年9月25日。虚子庵例会。私は「稲塚」を見たことがないので、稲塚がどんなものかイメージできない。稲塚へもたれて少しの間休息している旅人、旅を進めるその人の様子は悲しげであるという句意と思わ…

虚子探訪(16) 蓑虫

【虚子探訪(16)】 「五月雨や魚とる人の流るべう」 明治32年。「べう」は助動詞「べし」の連用形。五月雨となり魚捕りをしている人が流されてしまいそうだという句意。 「蓑虫の父よと鳴きて母もなし」 明治32年9月10日。根岸庵例会。『枕草紙』(第40段)が、…

虚子探訪(15) 亀鳴く

【虚子探訪(15)】 「亀鳴くや皆愚かなる村のもの」 明治32年。「亀鳴く」は春の季語。実際には亀は鳴かずケラの声とされる。「皆愚かなる村のもの」は、田舎の保守性に対する、理想主義的な虚子の苛立ちなのかもしれない。虚子25歳、まだまだ意気盛んな若い…

虚子探訪(14) 冬籠

【虚子探訪(14)】 「耳とほき浮世の事や冬籠」 明治31年。煩わしい現実から離れて冬ごもりしたいなあという、ちょっとお疲れモードの作者がぼやいてみた句。 「鶯や文字も知らずに歌心」 明治32年。「鶯ってやつは、文字は知らないけれど歌心はあるねえ。い…

虚子探訪(13) 蒲団かたぐ人

【虚子探訪(13)】 「蒲団かたぐ人も乗せたり渡舟」 明治31年。蒲団を肩に担いで運ぶ人が、渡し船の同乗者となった。どういう事情のある人なのかと推測したのだろう。 「柴漬(ふしづけ)に見るもかなしき小魚かな」 明治31年。「柴漬(ふしづけ)」は、柴(ふし)…

虚子探訪(12) 笛ふく人

【虚子探訪(12)】 「橋涼み笛ふく人をとりまきぬ」 明治31年7月22日。「5月以来母病気のため松山にあり。8月に至る。」と注あり。納涼風景として実際にこうした光景があったのだろう。そしてそれは、母を看取る家族の光景とのダブル・イメージでもある。 「…

虚子探訪(11) 間道

【虚子探訪(11)】 「間道の藤多き辺へ出でたりし」 明治31年。「間道」は、主要な道から外れたわき道や抜け道のこと。間道を抜け出ると沢山の藤の花が咲く川辺もしくは海辺に出た。 「逡巡として繭ごもらざる蚕かな」 明治31年。「逡巡」は決心がつかずぐず…

虚子探訪 (10) 蛇穴

【虚子探訪 (10) 】 「石をきつて火食を知りぬ蛇穴を出る」 「蛇穴を出て見れば周の天下なり」 「穴を出る蛇を見て居る鴉かな」 明治31年。「蛇穴を出づ」は春の季語。第1句、「石をきつて」は、石を打ちあわせ火を発生させること、「火食」は物を煮焚きして…

虚子探訪 (9) 手水鉢

【虚子探訪 (9) 】 「松虫に恋しき人の書斎かな」 明治29年。松虫が鳴いている。書斎で机に向かっている男に思いを馳せる女性がいる。松虫の季語に女性の男に対する恋慕する情の深さを感じればよい。 「盗んだる案山子の笠に雨急なり」 明治29年。傘代わりに…

虚子探訪 (8) 野分

【虚子探訪 (8) 】 「鶏の空時(そらどき)つくる野分かな」 明治29年。「空時(そらどき)」がよく解らない。。「空(そら)」は形容動詞で「心がうつろで落ち着かないさま。気もそぞろなさま。うわのそら。」を意味するので、台風が来ることを察知して、鶏が落ち…

虚子探訪 (7) 薬煮る母

【虚子探訪 (7) 】 「蚊帳越しに薬煮る母をかなしみつ」 明治29年。虚子の母柳は明治31年に病没。この頃すでに母の病気は進んでいたのであろう。薬を煮ている母の姿に哀しみを覚える虚子がいる。 「人病むやひたと来て鳴く壁の蝉」 明治29年。「人病むや」は…

虚子探訪 (6) 瓜盗人

【虚子探訪 (6) 】 「先生が瓜盗人(うりぬすびと)でおはせしか」 明治29年。瓜泥棒を捕まえてみれば『なーんだ、先生かよ』。「おはせし」と敬語表現に諧謔味がある。 「病む人の蚊遣見てゐる蚊帳の中」 明治29年。病気となり蚊帳の中に寝ている人がいる。蚊…