虚子探訪(32) うき巣

【 虚子探訪(32)】

 

「うき巣見て事足りぬれば漕ぎかへる」

 

 「うき巣」は、浮巣で夏の季語。カイツブリは、梅雨の前後に水草の茎等を集めて湖沼の水面に巣を作る。藻等が無造作に寄せ集められ、その上部が少しへこんでいる程度のものであるため、普通の人には容易にわからない。かねがね見たいと思っていた浮巣を見ることができて満足したので、舟を漕ぎ帰したという句意。

 

「鎌とげば藜(あかざ)悲しむけしきかな」

 

明治38年7月23日。浅草白泉寺例会。会者、鳴雪、碧童、癖三酔、不喚楼、雉子郎、碧梧桐、水巴、松浜。一転等。

「藜(あかざ)」は、アカザ科の畑や荒地に自生する一年草。夏に緑黄色の細かい花が穂となって咲く。若葉は食用、茎は杖にする。庭のアカザを刈ろうと鎌をとぐと、アカザは何だか悲し気な様子をしているよ、という句。