最悪の日

どうも風邪を引いたらしい。鼻水はでるし、朝から腹具合も悪い。
朝の通勤電車では隣席の若い男が熟睡して身体を押し付けてくる。寝ていて無意識とはいえ、凭れてくるのに対処しているうちに降車する駅についてしまう。不快な一日の始まりであった。
来社の風邪をひいた客の対応をしているうちに、自分の体調がどんどんおかしくなっていく。
仕事を定時に終え医者の診察を受ける。腹痛がまして、そのまま診察台に寝ていたいと思う。調剤薬局で吐き気に襲われトイレへ。ふらふらヨレヨレ状態で、腹痛に耐えながら、電車にのり自動車を運転し何とか自宅にたどり着いてベッドへ倒れこむ。

突然に人間は病気になる。痛いのは、本当にかなわんなあ。しみじみ思う健康のありがたさ。



露草の日差せば濡れてゐたりけり

鈴木鷹夫の句。

『3月のライオン』13巻発売

コンビニに羽海野チカの『3月のライオン』13巻が並んでいる。1年に1巻のペースでしか出ないので発売が本当に楽しみなマンガ。第2期のTVアニメも放送開始とある。

まずは目出たいが、現在ストーリー展開は足踏み状態。色々な登場人物の人間模様を描くのはよしとしても、最近は短編集みたいな味わいになってきている。作者はいったいどこへ読者をつれて行こうとしているのだろう。

 

水澄めば野に新たなる風生まる

 

大輪靖宏の句。

 

2017角川俳句賞(下)

角川俳句賞への応募作、「遅日」残りの25句。

 

中年の破れジーンズ春夕焼
遅き日や垣根の蔓は絡みあふ
春の雨鳩の姿は消滅す
褪色の求人ポスター四月尽
苜蓿繁る葉の下影生まれ
花虻や脇目もふらず突入す
囀りの休むことなく椎大樹
藤の花房引力の絶え間ざる
新緑や高速バスを先導す
太陽の塔となりたし葱坊主
地下鉄や涼しく誰も迎へ入れ
新緑の深きところに神の宮
緑陰を挙式の夫婦拝殿へ
木下闇鳩の視線が集まりぬ
日没の駅の人波汗臭し
手の甲に血管浮くや花菖蒲
冷蔵庫閉め暗闇に戻しけり
冷し中華気分は少し強めの酢
団扇裏返し無かつたことにする
半ズボン足の静脈透けて見ゆ 
蜘蛛の糸あらぬところをつなぎけり
薄暑光今日また頼むAランチ
法面に力集めて朴若葉
土撥ねて光まぶしき蚯蚓かな
真ん中に皇帝ダリヤ植ゑにけり

2017角川俳句賞(上)


第63回角川俳句賞は、月野ぽぽな氏の「人のかたち」が受賞。
「遅日」の題で応募した私の作品を2回に分けて掲載します。

 

冬風に吹き寄せられて鳥の羽根
黙々と形無くなり恵方巻
大寒やトムヤンクンを吹きさます
銀盤に曲線残るスケーター
冬の闇二回三回廻し蹴り
白マスク順番を待ち物言はず
組む足の宙に泳ぎし冬電車
霾るやグラフ波打つ心電図
春隣綾取りせがむ児の両手
白梅や全枝空へと開放す
洗面台縁まで満たす春の水
菜の花や満開となる蝶となる
白狐見たかもしれず春の宵
城ゆれる水面を分けて花見舟
花を背に高々上げし自撮り棒
ギターケースへ硬貨数枚花少し
一滴したたり落ちぬ猫柳
チューリップ奥の奥まで見せている
背の固きソファーに凭れ春の昼
突然に始まつている亀鳴くや
春驟雨ビニール傘なれば盗りしか
細枝のしなるその先雪柳
石楠花や花の芽すでに尖りたる
躑躅足音たてて雉一羽
紙風船落ちれば地面転がりぬ

秋分エトセトラ

白鷺が一羽、稲刈りが済んだ田に降り立ち、あたりを見回している。群にはぐれて仲間の姿を探しているのか。

赤蛇が蛙をくわえて庭の真ん中に。朝食を手に入れたよろこび。

蜥蜴の骸に、蟻が集合。獲物はあまりに大きい。

農機具庫に一輪車をとりにいったら、子猫が二匹あわてて隠れた。いつの間にかネグラにしているようだ。

蝉鳴く声がまだ聞こえる。一日が淡々と過ぎていく。



嶺聳ちて秋分の闇に入る


飯田龍太の句。

福田若之『自生地』

福田若之の初句集『自生地』(東京四季出版)が、ちくさ正文館に2冊並べてあったので購入して読む。本のサイズは新書の横幅が2センチほど拡大した変型版。

試行錯誤がそのまま読者に提示された感じである。こんなこともあんなこともやってみたんだけどどうですか、という問いかけ本。

読んで思ったのは、句の構造が散文「AはBである」というのが大半であるということ。この俳句構造は、強く断定するために俳句の結論に諾否の選択しか残されない。私はこれはマンションに似ているなと思うのであるが、マンションは出入り口が玄関一つ、そこの通過が許されるかどうかがポイント。だから仮に「マンション俳句」と命名してみる。俳句の散文化が指摘されて久しいが、生活スタイルがマンション化し個人生活に他者を入り込ませない傾向に社会が進む中で思考様式も影響を受けているのだろう。

現代が色濃く反映された句集である。

 

春はすぐそこだけどパスワードが違う

 

句集より。