通勤路(下)

「通勤路」の残り25句。

口開けし金魚見上ぐる空のあり
アスファルト蟻の荒野は続きけり
紫の唇笑うプールの日
黒き空花火の雫しだれ落つ
遠雷に山まばたきて痙攣す
台風の雨が屋根打つ乱拍子
新涼や車窓向こうに影法師
月天心沈黙の無き街の上
車燈つき宵闇へ猫走り去る
鼻水も蕎麦もすすりし十三夜
身を割りてあけび全てを曝すなり
ずんずんと鷄頭咲ききぬ道占拠
桜葉はすべて穴あき落ちにけり
跳ね転び路上に落葉放浪記
ゆく秋をとどめて倒す砂時計
冬の朝瀬音犬吠え飛行音
首ふりて駅を闊歩す鳩の冬
弾丸の如く飛び立つ寒雀
冬晴れやビルの鋭き角切る景色
人気なき桜並木に雪の花
凍結路対向車線に滑りゆく
冬の夜方向指示器点滅す
豆炭も煉炭も消え年流る
熱燗や今日の手柄をひとり褒む
聖誕祭生きとし生けるものに歌

2013年の角川俳句賞は、清水良郎「風のにほひ」が受賞。選考委員は、池田澄子、高野ムツオ、正木ゆう子、小澤實の4人。