『猫を棄てる 父親について語るとき』

村上春樹の『猫を棄てる 父親について語るとき』(文藝春秋)を読む。
村上春樹が実父について語るノンフィクション、新書版でイラスト付なのであっという間に読める。お寺の息子で高校教師だった父とは確執があったようだが、そのことよりも三度の徴兵にあった父の戦争体験とその息子をめぐる庶民の歴史の記憶として読むべきなのだろう。いまなぜ、わざわざ父親のことを書こうとしたのか。村上春樹は、自身の意識の底にある戦争、歴史について、父親を語ることにより整理したかったのだろう。書かずに自分の中だけで済ませることもできただろうに、作品として発表するのは物書きの業というべきか。


先を行く父が手を振る夏帽子