飯田龍太自薦10句

紺絣春月重く出でしかな
大寒の一戸もかくれなき故郷
父母の亡き裏口開いて枯木山
一月の川一月の谷の中
朧夜のむんずと高む翌檜
かたつむり甲斐も信濃も雨のなか
白梅のあと紅梅の深空あり
貝こきと噛めば朧の安房の國
黒猫の子のぞろぞろと月夜かな
白雲のうしろはるけき小春かな


『俳句αあるふぁ』が、飯田龍太の生誕100年の特集をしている。飯田龍太自選80句も掲載されているが、膨大な句群から作者が最もお気に入りだった句は、山梨日々新聞で平成3年7月1日に俵万智と対談した際に飯田龍太が選んだ10句なのではないだろうか。人口に膾炙した句がならぶ。書き写していても、詩情溢れる美しい調べに酔わされ、よくこの言葉を掴まえたなあと嘆息が漏れる。愛唱される句が、こんなにもある俳人はいない。