【虚子探訪(208)】
「神にませばまこと美(うる)はし那智の滝」
那智の滝をどのように俳句表現するかは、対象のスケールの大きさもあり、難しい課題である。虚子は、滝=神と断定することにより、荘厳かつ真実の美と滝を詠んだ。こういう把握は、虚子ならではという気がする。
「鬢に手を花に御詠歌あげて居り」
昭和8年4月10日。南紀に遊ぶ。橙黄子東道。那智の滝。青岸渡寺。
三人の女性の巡礼が御詠歌をあげていた。風が吹いたか、落花があったのか、巡礼がさりげなく髪に手を触れた。女性的な仕草が句の優しさを呼び、御詠歌は青岸渡寺のみならず熊野に咲くすべての花へと広がりを見せる。