句集『稲津』(28)出口

【句集『稲津』(28)】

短夜や出口へ急ぐ人のあり


非常灯の緑の表示を見ると、そこには出口へ急ぐ人がいる。妻子も親も残して、友は何を急いで去っていったのか。印刷会社に勤め、酒好きな楽しい奴だった。


蝉時雨すべての音を消してゆく


呼吸が途絶え心音が止まると、友は闇の世界に消えた。子供にその名を付けるほど吉田拓郎が大好きだったが「今はまだ人生を語らず」と去って行った。享年56歳。