『滑走路』

『クドウ、萩原慎一郎っていう歌人知っているか?』と、3年ぶりの大学時代の仲間の飲み会の二次会で友人Sが聞いてくる。萩原と聞いて私が思い浮かべたのは、萩原裕幸。『滑走路という歌集出してるんだけど』。歌集『滑走路』が書棚にあること、映画にもなり角川文庫にもなったことを思いだす。唐突にSは歌集の短歌一首をスラスラと読み上げた。

 

きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい

 

大学生2人の父であるSは、滑走路の言葉の向こうに子供たちの未来を幻視したのだろう。Sは我々の句会では飲み会専門のメンバーで、俳句は作らず詩歌なんて無縁な人と思っていたので、意外な裏切りにビックリである。詩歌は人の心を動かす力があることを再認識した夜。