虚子探訪(60) 死神

【虚子探訪(60)】

 

「死神を蹶(け)る力無き蒲団かな」

 

この頃、虚子はチブスの療養中であり、予後が思わしくなく衰弱していた。死神を蹴とばす力もなく弱って蒲団の中に寝ているよという自虐の一句。

 

「その日その日死ぬる此身と蒲団かな」

 

大正12年1月19日 鎌倉虚子庵句会。病臥の儘。毎日毎日死んでいるような病状が続いている自分の身体と蒲団であることよ、とままならぬ思いを句に託した。寝たまま句会を開催したのであるから、俳句は虚子に力を与えるものであったのだろう。