三好達治「雪」と安西冬衛「春」

昨日の続きで、三好達治である。
三好の詩で最も知られているのは、『測量船』(昭和5年)に収録されている「雪」だろう。

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

この17字21音の二行の詩、俳句の断定する発想から出来たのではないか。屋根に雪が降る景色を切り取り「雪ふりつむ」、当時のありふれた日本人の名前「太郎」を配置し、日本的風景に抽象化し、「眠らせ」と続けて修飾した。雪の降るイメージ喚起のために「次郎」と変奏してリフレイン。三好達治は俳句を作ったから、断定して言わず残りの部分は連想させる、余白の効果を熟知していたと思うのである。


短かい詩では、安西冬衛の一行詩「春」も有名だ。

「てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。」

昭和4年『軍艦茉莉』に収録されている、山頭火の自由律俳句みたいなこの一行詩は、断定により強いイメージの喚起力を獲得した。断定して言わないというのは、俳句的な発想ではないか。
蝶と海峡、大と小の対比とその落差。「てふてふ」の柔らかくはかなげな言葉のイメージ。荒々しい海を想像ささせる「韃靼海峡」の韃靼という言葉、間宮海峡タタール海峡では言葉に力が無い。