夏夜の底へ

【自解・萩原11】


「蜘蛛の巣の真ん中に蜘蛛動かざる」

蜘蛛は張り巡らした巣の真ん中に、じっと佇み動かない。世界の中心に位置するのは自分自身。

アスファルト蟻の荒野は続きけり」

駅のホームのベンチに座って、下を見るとアスファルトの地面を蟻が走り回っている。蟻の荒野は、どこまでも続いている。

「遠雷に山まばたきて痙攣す」

雷が鳴り、光線が走る。山がフラッシュを浴びて、まるで痙攣しているように思った。

「雷や地を打ちすえし大音響」

落雷の大音響。天が地を打ちすえているのか。印象をそのままに。

「青深き夏夜の底へ街沈む」

最初に『俳句』に入選掲載された句。帰りの通勤電車の車窓から暮れ行く名古屋の街を見ながら推敲を重ねた。できたという手応えがあったのは覚えている。