虚子探訪 (9) 手水鉢

【虚子探訪 (9) 】

 

「松虫に恋しき人の書斎かな」

 

明治29年。松虫が鳴いている。書斎で机に向かっている男に思いを馳せる女性がいる。松虫の季語に女性の男に対する恋慕する情の深さを感じればよい。

 

「盗んだる案山子の笠に雨急なり」

 

明治29年。傘代わりに案山子の笠を盗りかぶるも、雨は急速に強く降り出した。

 

「元朝の氷すてたり手水鉢」

 

明治31年。元朝は1月1日の元旦のこと。手水鉢は手を洗う水を入れておく鉢。目出度い正月の水も凍結していては手も洗えない。