虚子探訪(52) 曝書

【虚子探訪(52)】

 

「岸に釣る人の欠伸や舟遊」

 

明治41年7月30日。蕪むし会。第6回。

舟遊びの舟から、岸辺で釣りをしている人が欠伸をするのが見えた。長閑な時間が流れていく。

 

「曝書風強し赤本飛んで金平(きんぴら)怒る」

 

「曝書」は本の虫干しのこと。昔の和本は定期的に虫に食われないように虫干しをした。「赤本」は昔話などを題材にした絵入りの大衆向けの読み物で、赤い表紙をつけて売り出されたことから赤本と呼ばれる。「金平(きんぴら)」は、金太郎である坂田金時の子、金平という強い伝説的な武将。「本の虫干しをしていたら、風が強かったので赤本が飛んでしまい、絵本に書かれた坂田金平が怒っている」という句意。

 

「書函序あり天地玄黄(げんこう)と曝しけり」

 

明治41年8月5日。「書函」は書物を入れる箱。「序あり」は書函と天地玄黄の両方にかかり、順序のこと。「天地玄黄」は『千字文』の第一句であり順序を示す語として使用された。書物を入れた箱には、天、地、玄、黄とそれぞれ記され、順番に虫干しの作業を行っていったのだろう。曝書の二句ともに字余りであるが、虫干しの様子が活写されていて、着眼点がおもしろいだろうと虚子が言っている気がする。