虚子探訪(53) 金亀子

 

【虚子探訪(53)】

 

「ぢぢと鳴く蝉草にある夕立かな」

 

明治41年8月9日。「ぢぢ」と蝉の鳴く音。近くから聞こえる。どこにいるかとさがしたら草に止まっているのだ。夕立の雨がふりだした。視点は自然に移っていき、夕立に驚いている蝉の姿が目に浮かぶ。

 

「羽抜鶏吃々(きつきつ)として高音かな」

 

明治41年8月10日。鳥は初夏に羽が抜けて新しい羽に生えかわる。その最中の鳥を羽抜鶏といい、高い音のどもるような声で鳴いているのだ。

 

「金亀子(こがねむし)擲(なげう)つ闇の深さかな」

 

明治41年8月11日。灯に向かって飛んできたコガネムシを捕まえ、夜の闇に放り投げる。コガネムシは闇より現れ、また闇に消えた。眼前には漆黒の闇の底知れぬ深さ静けさだけが広がっている。夜の闇を、ありありと感じさせる恐ろしいような句である。