虚子探訪(54) 新涼

【虚子探訪(54)】

 

「新涼の驚き貌に来りけり」

 

 「新涼」は、立秋以後に実際に感じる涼しさをいう。新涼が驚いたような顔をしてやって来たよ、と擬人化して初秋の季節を表現した。

 

「草市ややがて行くべき道の露」

 

明治41年8月14日。「草市」は、陰暦七月十二日の夜から翌朝にかけて、ハスの葉・おがら・みそはぎ・ほおずき等の盆花や、精霊棚の飾り物等を売る市。草市に出かけたのである、あたりの草むらには露がかかっている。作者は、やがて行くべき道、つまり死出の旅路を露を見て連想したのだろう。ただこの連想は、平凡でありきたりでしかない。

 

「冷かや湯治九旬の峰の月」

 

明治41年8月17日。「旬」は10日、九旬で夏九十日間をさす。朝夕に冷気を感じ冷やかさを感じる ようになったなあ、湯治にきて九十日目になるが、見上げる峰の月にも。月のすがすがしさに、病気の治療も進んだのだろう。