山本健吉
こどもの頃、学校の図書室には伝記の本がならんでいた。偉い人かどうかの評価は横に置くとして、人は先人の生き方を見て歩むしかない。司馬遷の書いた歴史書「史記」も伝記の集合体である。
丸善の棚に『山本健吉』(井上泰至著、ミネルヴァ書房、2022年初版)を見つけ購入して読みだす。山本健吉は、俳句を始めれば誰でもその名に触れずにいられない人物である。著者の井上泰至は、硬質な文章で山本の生涯を丹念に追いかけていく。山本は肺疾患で兵役免除、戦時の貧困で先妻石橋秀野を亡くしている。自らのことを語ることは少なく寡黙の人だったが、すべてを仕事の中に昇華させた。惜しむらくは西行論を完成させてほしかったと思う。今年読んだ本の中でも心に残る1冊となった。
薯畑にただ秋風と潮騒と
地の果に地の塩ありて蛍草
幸なるかなくるすが下の赤のまま
山本健吉が俳句を作るのは珍しい。