虚子探訪(29) 大海のうしほはあれど

【 虚子探訪(29) 】

 

「御車(みくるま)に牛かくる空やほととぎす」

 

明治37年5月25日。徳上院例会。「御車」は牛車(ぎつしや)のことで、「御所車」ともいう。「牛かくる」は牛を轅(ながえ)といわれるつなげる車のかじ棒にくくりつけることをいう。御所車に牛をかけている空を、ホトトギスが鳴いて飛んでいく、の句意。風雲急を告げる予感を漂わせた歴史題材の句である。

 

「大海のうしほはあれど旱(ひでり)かな」

 

明治37年6月25日。徳上院例会。大海は「たいかい」と読みたい。大海原にはあふれんばかりに潮の水が満ちているというのに、陸上ではカンカン照りの暑さで水不足のために苦しんでいる、という句意。雄渾な調子で一息に読め、調べが心地好い。故郷の瀬戸内海の原風景が虚子の心中に去来してできたのではなかろうか。