虚子探訪(44) 燈籠

【 虚子探訪(44)】

 

「六十になりて母無き燈籠かな」

 

明治39年。六十歳になって母がない盆燈籠であることよ。他人の境遇を詠んだ句。六十歳ともなれば人生も終わりに近く、その時母を亡くしたのである。母とともに世間を渡ってきた時間への思慕と追憶が感じられる句である。

 

「送火や母が心に幾仏」

 

明治39年。送り火を焚く母がいる。母は、今までに身内、親族、友人どれだけの人を見送ってきたことだろう。きっと母の心中には亡き人への思いが去来しているのだろう。虚子の母はすでに亡くなっているので、母の思い出が句の背景にある。