句集『稲津』(57)積乱雲

【句集『稲津』(57)】

蝉鳴くや光の中へ這ひ出たる


長い間真っ暗な地中にいた蝉が、地上に出て初めて太陽の光を浴びた時の気持ちは、どんなものなのかと想像してしまう。歓喜と解放、だからこそ蝉は命の限りを鳴く。


積乱雲戻ることなき道後ろ


高村光太郎に『道程』という詩がある。いつしか後ろに道が出来た。しかし、その道を戻ることはない。空に広がる雲を見上げながら未知なる未来へと歩いて行く。