句集『稲津』(155)プラタナス

【句集『稲津』(155)】

黄落の枝ごと切られプラタナス


街路樹の落葉が片付けられる頃、プラタナスは枝ごと切られて剪定されていた。葉が落ちた裸木は寒々として、厳しい冬の到来を予感させる。


顔の皺あきらかにして冬日


顔の皺がはっきり目立つような歳になった。冬の天気のよい日には、より皺がよく見える。皺の数は人生の経験の堆積、恥ずかしく思うようなものではない。

句集『稲津』(154)根深汁

【句集『稲津』(154)】

父娘二人の夕餉根深汁


父と娘が相向かいで夕飯の食卓に座り、根深の味噌汁をすすっている。あらたまって娘と二人きりになると、話すことがあるような、ないような。


頭上には高速高架十二月


会社の前面道路の上を名古屋自動車道が走っている。師走と呼ばれる十二月、走る自動車もせわしげ。慌ただしく一年が終わり時が過ぎる。歳月は人を待たず、か。

句集『稲津』(153)マフラー

【句集『稲津』(153)】


漆黒の夜を揺らして葉鶏頭


真夜中に風に揺れている葉鶏頭を詠んだのだが、葉鶏頭が夜を揺らしているのだと真逆の視点を設定してみた。言葉の調子で持ちこたえているだけの句になっている。


マフラーや少女の首が花の蕊


マフラーをしている少女が花のようだと詠んだ句。花に見立てるなら少女の首は花の蕊だとした。冬の思い思いのマフラー姿を見るのは楽しい。

句集『稲津』(152)黒タイツ

【句集『稲津』(152)】


黒タイツ足の先から来る冬


黒タイツをした足がならぶ電車席。冬の寒さは足元から来る。寒くなってくると衣服の色は黒っぽくなっていく。光を集めて暖をとるためだろうか。


のど飴を舌に転がし冬初め


冬は乾燥するので、飴を舐めていることが多い。お気に入りは、龍角散のど飴。口の中で転がしてあるうちに次第に小さくなり、いつのまにか無くなっている。

句集『稲津』(151)太多線

【句集『稲津』(151)】

松手入ニッカポッカのよく動く


ニッカポッカという作業着を俳句に詠んでみたいと思い作った句。松手入の季語が決まり、植木職人の機敏な作業風景を十七音にまとめた。


秋曇乗り換え告げる太多線


通勤の途中駅である多治見は、中央線から太多線への乗り換え駅。太多線は多治見と美濃加茂の間を走るローカル線、美濃加茂美濃太田と呼ばれていた。

句集『稲津』(150)ひつぱりだこ

【句集『稲津』(150)】

秋深しテトラポッドの護岸線


社員旅行で日間賀島へ行く。海岸のテトラポッドに波が打ち寄せている。山に住む者には、海の景色は物珍しい。テトラポッドは、隙間から海水が抜けていくのがいいのだろう。


秋風やひつぱりだこという干物


日間賀島の名物はタコ。店先にタコの干物が吊り下げ販売されている。「ひっぱりだこ」と名付けられているが、商売繁盛となれば目出度い。

句集『稲津』(149)北辰

【句集『稲津』(149)】

夕月夜わが町白く浮かびけり


山越えをした下り坂から、住んでいる町が一望できる。月光に照らされ白く輝く町が浮かびあがる。山に囲まれた田舎町に静かに夜が更けていく。


北辰の縁に集ふ星月夜


岐阜県立多治見北高の卒業生が、地元の居酒屋に集まり同窓会をした。「北辰」は校歌に出てくる言葉。青春の一時期を一緒に過ごした、その縁を大事にしている。