句集『稲津』(154)根深汁
【句集『稲津』(154)】
父娘二人の夕餉根深汁
父と娘が相向かいで夕飯の食卓に座り、根深の味噌汁をすすっている。あらたまって娘と二人きりになると、話すことがあるような、ないような。
頭上には高速高架十二月
会社の前面道路の上を名古屋自動車道が走っている。師走と呼ばれる十二月、走る自動車もせわしげ。慌ただしく一年が終わり時が過ぎる。歳月は人を待たず、か。
句集『稲津』(153)マフラー
【句集『稲津』(153)】
漆黒の夜を揺らして葉鶏頭
真夜中に風に揺れている葉鶏頭を詠んだのだが、葉鶏頭が夜を揺らしているのだと真逆の視点を設定してみた。言葉の調子で持ちこたえているだけの句になっている。
マフラーや少女の首が花の蕊
マフラーをしている少女が花のようだと詠んだ句。花に見立てるなら少女の首は花の蕊だとした。冬の思い思いのマフラー姿を見るのは楽しい。
句集『稲津』(152)黒タイツ
【句集『稲津』(152)】
黒タイツ足の先から来る冬
黒タイツをした足がならぶ電車席。冬の寒さは足元から来る。寒くなってくると衣服の色は黒っぽくなっていく。光を集めて暖をとるためだろうか。
のど飴を舌に転がし冬初め
冬は乾燥するので、飴を舐めていることが多い。お気に入りは、龍角散のど飴。口の中で転がしてあるうちに次第に小さくなり、いつのまにか無くなっている。
句集『稲津』(149)北辰
【句集『稲津』(149)】
夕月夜わが町白く浮かびけり
山越えをした下り坂から、住んでいる町が一望できる。月光に照らされ白く輝く町が浮かびあがる。山に囲まれた田舎町に静かに夜が更けていく。
北辰の縁に集ふ星月夜
岐阜県立多治見北高の卒業生が、地元の居酒屋に集まり同窓会をした。「北辰」は校歌に出てくる言葉。青春の一時期を一緒に過ごした、その縁を大事にしている。