虚子探訪(34) 蜘蛛

【 虚子探訪(34)】

 

「客人に下れる蜘蛛や草の宿」

 

明治38年。「草の宿」は、草ぶきの粗末な家を言い、自家の謙称で使用することもある。粗末な我が家の来客の頭上に蜘蛛が下りてきたよ、という句意。古今和歌集収録の衣通姫が帝の御出でをお待ちして詠んだ『わが背子が来べき宵なりさゝがにの蜘蛛のふるまひかねて著(し)るしも』は謡曲にも引かれている和歌であり、それを背景にした句。

 

「蜘蛛掃けば太鼓落して悲しけれ」

 

明治38年。「太鼓」は蜘蛛の卵嚢、繭のようなもので平たく蜘蛛の腹に抱いている。蜘蛛の市街を掃いていると、大事そうに抱えていた卵嚢を落とした。それを見てふともの悲しい感情を覚えたという句意。