句集『稲津』(89)燠の火

【句集『稲津』(89)】

燠の火の白くなりゆく牡丹鍋


囲炉裏の自在鉤にかけた牡丹鍋を囲んで仲間と薬食い。炭火の火勢も衰え、灰となって白く表面を覆いだす。牡丹鍋はまだあり、酒もまだある。久闊をあたため、話は尽きない。


冬の蝶影を配りて漂へる


ふらふらと冬の蝶が飛んでいる。あちらへこちらへと、蝶は影を配っているかのようだ。あてどなく流離っているのは蝶だけだろうか。ああ、蝶が飛んでいる。