句集『稲津』(77)ヒヤシンス

【句集『稲津』(77)】

ヒヤシンスさらに強まる雨の音


家の玄関にあるヒヤシンスの鉢。外は雨、また一段と雨音が強くなり、振りが激しくなった。ヒヤシンスの名は、ギリシャ神話の美青年ヒュアキントスに由来する。


胸元を大きく広げ夏来る


初夏の頃になると暑さを感じるので、女性の服装も胸元が広がった軽装が主流になってくる。西東三鬼の「おそるべき君等の乳房夏来る」の俳句を思いだす。

池江璃花子

競泳の日本選手権で池江璃花子が、女子50メートル自由形も優勝。100メートルバタフライ、同自由形、50メートルバタフライに続く「4冠」を達成した。
つぎつぎと日本新記録をつくり女子水泳界の頂点にいた池江璃花子白血病と報道された時、奈落の底へと彼女を突き落とした運命の残酷さを思わずにはいられなかった。15キロも体重は減少し筋肉も落ちてしまった池江璃花子が、レースに復帰して勝つまでに復活したことに素直に感動してしまう。一度は死にたいとさえ口にした本人の並々ならぬ努力と気力に頭が下がる。闘病の末に勝ち取ったオリンピックでの活躍を心より応援したい。


春風や闘志いだきて丘に立つ


高浜虚子の句。

句集『稲津』(76)幣辛夷

【句集『稲津』(76)】

未来とは常に前方幣辛夷


未来は常に前方にあるもの、後方にはない。後ろには、過去しかない。地元には
辛夷の自生地が幾つかあって、花を見ることができる。


花虻の羽ばたきの音だけがある


虻の飛ぶ音がするが姿は見えない。花の中に潜り込んでいるのだ。のどかな春の昼、花から花へ虻が移動していく。花に集まるのは蝶だけではない。

新タマネギ

タマネギの収穫は春と秋の年2回。春に種を蒔くのは北海道が中心で、その他の地域は秋に種を蒔く。秋に蒔いた種が収穫時期を迎えるのが5〜6月。そのタマネギを3、4月頃に早取りしたものを新タマネギと呼ぶ。新タマネギは甘い。スライスしてカツオ節と醤油をかけたものは、酒のつまみにぴたりと合う。タマネギ1個分食べてしまった。


玉葱のいのちはかなく剥かれけり


久保田万太郎の句。

句集『稲津』(75)桜餅

【句集『稲津』(75)】

春筍地面押し上げ覗きけり


筍が地面から生えてくる季節。筍にしてみれば暗い地中を成長して地面を出た時は、突然世界が開いたみたいな感じなのだろうか。恐る恐る、しかし興味津々で覗いている。


桜餅一つは君に取つておく


サクラ色に着色された桜餅が店頭に並ぶ。季節のものだからと購入。美味しいけれど全部は食べない。一つは君のために残して、春の喜びをお裾分け。

スプーンはスパゲッティに必要か

昼食に茄子のアラビアータを食べる。フォークとスプーンがテーブルに並べられる。基本的に私は面倒くさいのは嫌いなので、スパゲッティを食べるのはフォークだけで済ませる。スプーンの上で麺を丸めて食べるようになったのは何時からだろう。一説によれば、イタ飯ブームが起きた90年代らしい。スプーンを使うのが上品そうに見えて流行したのだが、スパゲッティの本場イタリアでは、スプーンはフォークを使い慣れない幼児が使用するものらしい。常識と思うことも、時と場所が変わればまた違う。


すずめらに青波しぶき茄子畑


飯田龍太の句。

句集『稲津』(74)揚羽蝶

【句集『稲津』(74)】

揚羽蝶空気の先へ止まらんと


揚羽蝶がゆらゆらと飛んでいる。空気には先っぽがあって、そこに止まろうと機会を伺っているのかもしれない。『俳句』星野高士選者で佳作に入選。


葱坊主つぎつぎ風は吹いてくる


畑に植えられた葱が丸い胞子をつけている。突っ立つ葱に、風は挨拶をして去っていく。入れかわり立ちかわり風はやってくる。葱坊主が目印のように。