句集『稲津』(27)岩島博司

【句集『稲津』(27)】

先を行く父が手を振る夏帽子


私の父は、子供に対して余りどうこう言わない寡黙な人だった。進学も就職も結婚も好きなようにさせてもらった。人生の先を歩いている父が、手を振って先導してくれたような気がする。


七夕の夜を静かに脈打てり


「友人岩島博司を悼む三句」の前書き。脚立に上り屋根の樋を掃除していた子供時代からの友人は、転落してそのまま亡くなった。集中治療室にいる友を見舞ったが、心臓の脈打つ電子音が病室に響くばかり。